novel

□はっぴぃほわいとでぃ
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「先輩、これなんっすか?」

俺のディスクの上に置いてある綺麗にラッピングされた小さな箱が気になったのか、石垣がジッとそれを見ている。

「お前のじゃないぞ」

「わかってますって!」

とか言いながら内心ガッカリしたような顔だ。こいつは俺に一体何を求めてるんだ。

「ホワイトデーだから、お返しでしょ?彼女さんに」

「うわ、匪口!?お前いつの間にいたんだよ!」

「さっきからいたよ。ね、笹塚さん、そうなんでしょ?」

「ああ、まぁな」

匪口と俺の会話を聞いて、石垣は口をポカンとあけている。そういえば、こいつにゆいのこと言ってなかったか。

「笹塚さんなら用意してると思ってたよ。実はさ、さっきゆいちゃんに会ったからロビーまで連れてきてきたんだよね」

「本当か?」

完全に石垣を置いてけぼりにして会話が続く。すると、俺のケータイが鳴った。ゆいからだ。

「もしもし」

『あ、もしもし。私、あの、匪口さんがいいって言うから…その…』

「ああ、今聞いた。ロビーにいるんだな?」

『うん。迷惑じゃなかったかな?』

「大丈夫だ。今すぐ行くから待ってろ」

俺が電話を切ると、匪口はニッコリ笑って「俺は笛吹さんに呼ばれてるから」とさっさとどこかへ行ってしまった。俺はディスクの上のプレゼントを持ち、ゆいの待つロビーまで小走りで向かった。




「ゆい」

「あ、衛士っ…ごめんね、いきなりで」

ゆいはいつも俺に気を使う。まぁ、いつ事件が飛び込んでくるかわからない状況で働いているわけだから仕方はないが。申し訳ない気もする。

「そんなに気を使わなくていい。…ちょっと、外出るか」

「うん」

さすがにロビーじゃ人目が気になる。俺はゆいを連れて近くのファミレスに入った。

「俺昼飯食ってないんだけど、なんか食ってもいいか?」

「いいよ。私もなんか食べよっかなぁ」

「奢るから、遠慮するなよ」

「ありがとう」

警察署にいた時はかなり緊張していたようだが、ここまで来るといつものゆいに戻りつつあった。

「あ、仕事抜け出して大丈夫?」

「ああ。今は大丈夫だ」

俺がそう言うと少し安心したようだ。
ゆいは通りすがったウェイトレスにカルボナーラを注文し、俺はメニューを見て決めるのがめんどくさくてゆいと同じのを頼んだ。

「匪口さんがね、『大丈夫だからついてきなよ』って言うから来たんだけどね。やっぱ署内って緊張するね」

「別にやましいことしてないんだから大丈夫だろ?」

「そりゃそうだけどさ!」

他愛もない話をするのも一週間ぶりぐらいだ。
仕事が忙しくて会える日はかなり少ないのに、少しの我侭も言わず俺と付き合ってくれてるゆい。寂しい思いをさせてるのは重々承知している。

「ゆい。今日ホワイトデーだろ」

「うん」

「これ、チョコレートのお返し」

「うわぁ、ありがとう!」

テーブルの上にプレゼントの箱を置くと、ゆいは本当に嬉しそうに「開けていい?」と聞いてきたので、俺は「いいよ」と答えた。
さて、どんな反応するんだろうな。

「わぁ、綺麗な指輪!」

「うん、左手の薬指にはめるやつ」

「……え??」

戸惑うのも当然だ。ホワイトデーにファミレスで渡されたのが指輪で、しかも暗に婚約指輪だと言われて戸惑わない女はいないだろう。唐突過ぎる上に、雰囲気もくそもない。

「衛士……本気?」

「冗談で指輪渡す奴じゃないってのは、ゆいが一番よく知ってると思うんだけどな」

「だよね、うん、だよね…」

「婚約して、結婚して、籍を入れたとしても……今と同じ気使わせたり寂しい思いさせることに変わりはないんだけどな。ただ……」

「……ただ?」

「『夫婦』になることに意味があると思ったから。こんなとこで言うのもあれだが、ゆいに、ずっと一緒にいて欲しい」

俺の言葉を聞いて、ゆいは涙を浮べながら指輪を握り締めた。やっぱり、迷うよな。刑事なんて危険な仕事をしている男と一緒になれば、いつ未亡人になってもおかしくはない。

「返事は、いつでもいい」

「もう、決めた」

「え?」

ゆいは指輪を左手の薬指にはめて、ニッコリ笑い

「衛士と、ずっと一緒にいる」

と言った。

今すぐ抱き締めたくなって、思わずゆいに手を伸ばしたが、ウェイトレスがカルボナーラを持ってきたのを見て我に返った。

「本当に…いいのか?」

「冗談でいいって言えるほど、軽い事じゃないでしょ?」

「だよな、うん」

「ふふ、衛士。自分で言っといて動揺しすぎじゃない?今更取り消しって言っても許さないからね」

「取り消すわけないだろ」

これでも嬉しくて幸せでたまらないんだから。






はっぴぃほわいとでぃ
―笹塚衛士の場合―





◎そのあとのお話



「じゃ、プロポーズ成功ってこと?」

「えぇぇぇ!?先輩が結婚とか想像できないんっすけど!!!」

「俺も。自分で言ったのに未だに実感わかないし、想像もできない…」

「まぁ大丈夫でしょ?笹塚さんとゆいちゃんなら。ゆいちゃんほど笹塚さんとちゃんと付き合える人って他にいないと思うし」

「自分でもそう思う」

「ファミレスでプロポーズなんか、そのへんの女ならありえないって振られてるところだよ」

「だよな。普通はありえないよな」

「マジか…先輩…マジですか…結婚…って…」

「なんでお前が泣きそうになってんだ」








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