novel
□はっぴぃほわいとでぃ
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今日は『ホワイトデー』らしい。
バレンタインデーに女が好意をよせる男にチョコレートを渡し、ホワイトデーに男が女にお返しとして何をあげるという行事だと弥子が言っていた。
我輩もバレンタインデーにチョコを貰った。ゆいに。事務所の手伝いとして働いている我輩のしもべの一人だ。
無意味に義理チョコというものを渡す習慣もあるようだが、ゆいは「これは『本命』だからね」と言って我輩にチョコを渡してきた。
我輩を魔人だと知って言っているのだから只者ではない。それに、不思議と嫌な気はしなかったのだ。
「ネウロってば!ゆいちゃんへのお返し用意したの?」
「うるさいぞ、少し静かにしていろ」
「…なんだ、真面目に考えてるんだ。でもゆいちゃんも変わってるよね、ネウロに本命チョコだなんて」
何がいいんだか、と呟いた弥子の頭をきつめに叩いて、我輩は外へ出た。
「ホワイトデーフェア、か」
魔人の我輩には、正直何を『お返し』するべきなのかがよくわからない。というより、お返しをする必要があるのだろうか?弥子が渡してきたなら、多分こんなにも悩むことはなかっただろうに。
「……マシュマロか」
目に付いたのは可愛くラッピングされているマシュマロ。色とりどりのそれはきっと女受けもいいだろう。それにゆいは甘いものが好きだと言っていたしな。
「クッキーでもいいか?」
…って、一体我輩は何故こんなに真剣に考えているのだ。なんでもいいではないか。そう考えても、何故かなんでもいいことはないような気がしてならない。
事務所に戻ると、ゆいが来ていた。弥子やしもべ二号の姿は見当たらない。
我輩はパソコンに向かっているゆいの目の前に買ってきたマシュマロを置いた。
「……ネウロ?」
「ホワイトデーなんだろう、今日は」
「そうだよ」
「ならば、ちゃんと『お返し』するべきだと思った、それだけだ。ありがたく思え」
「そっか、ありがとう」
複雑そうな顔をしてマシュマロを受け取るゆい。何故そんな不満げな顔をしているんだ。不満があるのはこっちだ。
「なにがそんなに不満なんだ?」
「え?」
「我輩を謎以外のことで散々悩ませて頭と金を労力を使わせておいて、その態度はないだろう」
「…悩んでくれたの!?」
ゆいは心底驚いたように椅子から立ち上がる。
「わざわざ百貨店まで行って、一時間は悩んでいた」
「そうなんだ…ありがとう、ネウロ」
よくわからないがゆい突然笑顔になり、ラッピングを解くとマシュマロを口に運んだ。
「うん、美味しいよ」
「そうか、それは、よかったな」
次々にマシュマロを口に運ぶゆい。我輩の目線はいつの間にかゆいの唇を見ていた。それに気付いたとき、妙に気恥ずかしくなり目をそらす。
「どうしたの?」
「……なんでもない。それより、さっさとマシュマロを食べて仕事に戻れ」
「はいはい」
妙にもやもやした思いが頭を支配している。この言葉では上手く説明できない感情を人間は『恋』というらしいが、いや、それはありえない。
「ネウロ?」
「なんだ。喋ってる暇があるならさっさと食べて仕事に戻れ」
「あのね、ネウロにはわからないかもしれないけど……私、ネウロのこと、大好きだよ」
……ダメだ、頭が回らない。
頭がわけのわからない感情に支配されて、どうすればいいのかわからない。
「ゆい、お前は、我輩をどうしたいんだ」
「どうしたいって……あわよくばお付き合い?」
「そうか。我輩は……」
どうしてかはわからない。
でも、いま、無性にゆいの骨が折れてしまいぐらい強く抱き締めて、自分だけのものにしたくてたまらない。
「なんでもない」
何故か、それが言えなかった。
はっぴぃほわいとでぃ
―脳噛ネウロの場合―
◎後日談
「ゆいちゃん、どうだった?ネウロとは」
「どうもこうも、やっぱりよくわかんないよ。でもお返しに関しては凄い悩んでくれたみたいなんだ。それだけでも嬉しいよね」
「はぁ!?アイツがホワイトデーのお返しのことで悩んだのか!?アイツでもそんなことで悩むんだなぁ!」
「しもべ二号、それ以上無駄口叩くと口を縫い付けて喋れなくしてやる」
「んだろコラァ!!」
「ネウロ、いつの間に戻ってたの!?」
「しもべ一号、お前はさっさと茜にトリートメントしてやれ」
「……わかりましたよ」
「ゆいは、この事件に関して調べておけ」
「りょーかいっ」
「……」
「…アイツ、ゆいにだけしもべってつけないようになったよな」
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