novel

□無色
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人生でこんなに悲しくて辛くてどうしようもないことはあっただろうか。

彼の遺影の前で、私はただ呆然と立ち尽くしている。涙は出ない。ただ、胸がきつくきつく締め上げられてるような痛みにずっと耐えている。

「ゆいさん…あの…」

背後から声をかけられ振り返ると、そこには弥子ちゃんがいた。彼の最期を見届けた人物。

「どうしたの?」

「いえ、あの、ごめんなさい…」

「弥子ちゃんが謝ることじゃないよ。衛士がやりたくてやったことの結果だもの。今更誰も責められないでしょう?」

本当は怒鳴りたかった。
何故衛士の死を見ていることしかできなかったのかと、何故衛士の最期を見届けたのがお前なんだと。
こんなこと思っても今更どうしようもないし、何より弥子ちゃんが悪くないのはよくよくわかっていること。なのに、こんな情けない叫びがずっと頭の中で響いてる。

「…私、いまゆいさんが考えてること、わかりますから…。本当に、ごめんなさい」

弥子ちゃんはそう言うと私の元から早足で離れて行った。さすが『名探偵』さんだね。
私は目を衛士の遺影へと戻した。

「……情けないよね、ごめんね」

そう言ってから、棺に目を向ける。
もう、顔は見れない。もう一度見たら私は私ではいられなくなりそうだから。
ただ、棺のふたをそっと撫でて、衛士との思い出や彼の感触、匂い、全てを振り返った。
すると、今まで流れなかったものがすっと頬をつたっていくのがわかった。

「衛っ…士…」

ねぇ、どうして。どうして私をおいていってしまったの。どうして私を独りにしたの。どうして、どうして、どうして。

「ねぇ、帰ってきてよ…」






お通夜、葬儀、全てが終わりしばらく経った。私は彼の遺骨を預かった。後日、彼の墓に入れる予定だ。

外に目を向けると、外は綺麗な夜景が輝いている。一緒にいれるときは、この夜景をよく見ていた。
今は、綺麗には感じられない。全て色を失っているような、そんな風に見えた。

「どうして…。なんでいないの、衛士」

彼の写真の隣におかれた小さな骨壷。そこに向かって、ただ、「どうして」としか言えない。「どうして」と思うことばかりだから仕方ないんだけど。

「衛士も、独りじゃ寂しいでしょ…?」

「ねぇ、衛士」

「会いにいっても、いいかな?」

ダメだ、と言われるのはわかってる。もし、あの世があってそこで彼と会えばいつものボーッとした表情からは想像できないぐらいの怒りの表情をみせて私を怒鳴りつけるだろう。

「でもね、怒られてもいいの」

「なんだかんだ言っても、そばにいてくれるんでしょ?」

衛士は、優しいから。
きっと怒ったあとに、抱き締めてくれる。










意識がボーッとする。
手首が焼けるように熱い。
でも心地いい。
衛士の写真を見ながら、私は会ったら何を話そうか考えていた。

寂しかったよ、会いたかったよ。大好きだよ、愛してる。一緒にいようね。

うん、これでいいや。

目を閉じる寸前、笑っている彼の顔が見えた気がした。




無色
「やっと、会えるね」




アトガキ
元ネタになってた曲を聴いてるとふっと思いついた話。これ書こうと思って原作読み返したんですが、かなり病みました。文章にしてると一人お葬式みたいな感じになってました。でも笹塚さんの夢は甘いよりちょっと病んでる方が好きだったりする。いや、甘いのも好きですけど。
次こそ甘いの書きます。






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