期間限定(仮)【T&B部屋】

□エメラルド色の世界
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――私は愛されたかったのだ。


ただ、それだけ。

それだけだった、はずなのだ。




どこで間違えたのか…それとも最初から間違っていたのか。

私にはそれを確かめる術などない。

間違いを指摘してくれる者もいない。



皆私の能力を…いや、私自体を恐れていたのかもしれない。


《シティー・クローアは親殺し》


そんな噂が更に私に近付く者達を遠ざけ、周りはいつの間にか話すことさえ恐れ出した。


消されるぞ、殺されるぞと口々に言い、私を迫害する…。



しかし、私は恨んでなどいなかった。

周りの反応が、人間として正しい反応だったからだ。


危険物質を恐れ除外する、それが正しい。


だからこそ、私は愛し愛されたかった。

かつて私の全てを受け入れてくれた妹のように、私の事を、能力を恐れず対等に接してくれる者を探していた。



そして、今だからこそ思うのだが…あの出来事はおかしい。


私には、理解できていないものの空間移動はできないはずなのだ。


能力が暴走したとしても、パーツを切り離す程度しか出来ない、筈。


それなのに…そうだ、私はなぜ《heart》を欲しがった?


愛される事を望んだのは認める。しかし、それだけで…《情愛》を抉り出すだろうか。


なぜ《love》ではなかった?


なぜ…私を愛してくれた妹まで。


そもそも、あれは私の家族のものだったのだろうか。


あの心臓は…血溜まりは…両親と妹のものだったのだろうか。


もしかしたら今もどこかで生きているのではないだろうか。


だとしたら何故、何故あんなことを――



「おいシティー?」

「っ!!…どう、なさいました?」

「それはこっちが言いてぇよ…子連れの親子見た途端ボーッとしちまってよー」




虎徹さんは、コーヒーカップを揺らしながら困った風に笑う。

そうだ、私は彼に誘われてランチに出掛けて…オープンテラスに…



「すみません…少し、昔の事を思い出してしまって」

「…そうか」




グッと残りのコーヒーを飲み干し、『それ、早く食っちまえよ』と私の目の前の皿を指差す。

…食べかけのサンドイッチ。



「…お1ついかがです?」

「何だよ、食欲ないのか?」

「そういうわけでは…ないのですが」



真っ赤なトマトが、今は怖い。

虎徹さんは私の視線に気付いたのか、トマトがはさんであるそれをひょいっと摘まみ上げた。

ぱくり。




「トマトが嫌いか?」

「…今は、嫌いです」

「何だそれ」




もぐもぐ、ぱくり。

あっという間になくなり、私も慌てて一口かじったサンドイッチを口に詰め込む。




「お、おいおい!そんなに慌てて食うと喉に詰まらせるぞ!?」

「ふぁいほーふれふお」

「ああもう!とりあえずゆっくり食えよ、食いもんは逃げたりしないから」




虎徹さんは、慌ただしく私の手にカフェオレを持たせ、呆れたように《ふぅ…》と息を吐いた。

むぐむぐと口いっぱいに頬張ったサンドイッチを咀嚼し、持たされたカフェオレで流し込む。




「…(ゴクン)では…鏑木さんは逃げてしまうのですか?」

「……何、言ってんだお前」




『貴方も私から離れて行ってしまうのですか?』と言い直すと、

虎徹さんはガタッと勢いよく椅子から立ち上がり、『バカ野郎!』と大声で罵った。


…どうして?




「お前を見捨てた奴等と俺を一緒にすんな!」

「…端から同一視などしていませんよ」

「じゃあなんでそんな事言うんだよ!」




辺りの客が、私達を見てざわざわと騒ぎだした。


男が二人、言い合いをしているのだ…それに、私は見る人が見ればシティー・クローアだと解るらしい。


虎徹さんがワイルドタイガーだとバレることはないが…




「場所を変えましょう」

「…あぁ」




虎徹さんも、周りの反応をチラリと見て鞄を持ち上げた。


―――

――




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