めいん

□こわいはなし。
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ねえ、知ってる?

昔。昔のお話なの。
此処の近くには大きな家があったの。

勿論、大きな家なだけあって凄く良い家柄の家なんだけどね。
近くに二件、家があった。
沖田さんと斎藤さんって苗字の人たちの家。

沖田さんの家のご子息は総司さん。
斎藤さんの家のご子息は一さん。

総司さんは確かお姉さんが居た気がするけれど、一さんはどうだったか忘れちゃった。

二人は仲良しだったの。
幼馴染だったの。
仲が良いなんてものじゃなかったの。
愛し合っていたの。

ああ、でもご子息って言ったよね、私。
そうだよ、男の人なの。
でも好きだった。お互いのことを。

友達としてじゃなくて、恋愛対象として。
凄く好きだった。それこそ狂うくらい。
夜に肌を重ねたことだってあったんだよ。

そのくらい、好きで好きで仕方が無かった。

外国に行って結婚しようかなんて考えだってあったの。
でもそれを許す親じゃないんだよ。
だって許婚、ってものが生まれにあるんだもの。

ほら、よくドラマなんかで出てくるでしょう。
お金持ちの子供に、小さな頃から用意されていた許婚が居るって話。
好きな人と結婚も出来なくて、親同士の約束で結婚させられちゃうって話。

総司さんと一さん、二人ともにそういう人がいたのよ。
総司さんは断固拒否した。
"僕は一君が好きなんだ"って。

沖田さんのお母さんとお父さんは吃驚したの。
だって、まさか自分の息子が幼馴染の男の子を好きだったなんて、って。
当たり前だよね。そんな風に思わないもん。

だけど、総司さんの意見をよく聞いてくれる沖田さんのお母さんとお父さんは、
それで納得してくれたの。
 

「総司が好きなようにすると良い。好きな人を好きでいればいい」


ってね。何ていい親なんだろう。
これでハッピーエンド?
甘いよ、そうだったら本当に良かったのにね。

総司さんの両親は子供の意見を聞く親だったのだけどね、
一さんの両親はそうじゃなかった。
ううん、お父さんがそうじゃなかった。

亭主関白で言うことを聞かない嫁や息子にはとても腹を立てた。
だから二人とも黙って父、旦那の後ろをついていった。

だけど今回ばかりは一さんは怒られるのを承知で告白した。
"俺は総司が好きなんです"って。
そうしたらね、そうしたら。


「お前は斎藤家の恥だ!」


ってお父さんは怒っちゃったの。
一さんの顔を何度も殴ったの。

口の中を切って、口から血が出ちゃうまで。
顔に青紫の痣が出来るまで。
歯向かう気力もなくなるまで。

それでも一さんは泣かなかったし、
総司さんのことを好きだと言って婚約を拒んだ。
ああもう、嫌になるね。

あ、勿論一さんに、じゃないんだよ。
一さんのお父さんにだよ。

だって一さんの意見を通してあげようとしたお母さんにまで手を出したの。
殴ったの。蹴ったの。刃物で脅したの。

其れを見て一さんは父親を嫌悪した。
それから、何度かお父さんはお母さんを責めた。
その度に一さんはお母さんを庇った。

悪いのは自分で、母さんは何も悪くない、って。

其れがまた気に入らなかったのね。
殺したの。

自分に歯向かった一さんを、殺したの。
勢いあまって首を絞めて、殺した。

その後お母さんは泣き崩れた。
息をしなくなってしまった一さんの姿を見て、泣いた。
その日のうちに一さんの死は総司さんにも知らされた。


「一君が―――?」


総司さんは訳が分からない、って顔で一さんの亡骸を呆然と見つめて、
暫くしてから泣き始めた。

総司さんの泣き声はどこまでもどこまでも、
それは悲しみから恨みの歌となって響き続けた。







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