さぶめいん

□約束
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「元就さんは遊ばねぇのか?」

一人で絵を描いていた少年の後姿を見て、
同じ幼稚園の同じクラスの伊達政宗は声をかけた。

「…我は一人でよい」

春になり晴れて年長組へと進級した二人は、
来年の春には、新しいランドセルを背負った一年生となる。

現在寒い寒い冬の1月。

一人で良い。
幼稚園生とは思えない切り返しをした少年の名前は毛利元就。
いつも一人で絵を描いて一人で本を読んで一人で粘土遊びをしている。

「あっちに元親と幸村も居る。あんたも行こうぜ」

大概、大人数で固まって遊びをしているものなのだが、
元就だけは一人ぽつんと皆に背を向けて何かをしている。
それは昼食をとるときにも。

政宗と元就、それから元親と幸村のクラスの担任をしている猿飛佐助も、
最初は皆の方で遊べと元就を説得していたのだが、
何時までたっても一人でしか居ない元就の行動に呆れ、というよりは諦めていた。

だから最近は毎日昼食時に元就に声をかける。


「ほら、皆の方で食べたほうが美味しいと思うけど?」


それでも行かない元就を放っておくわけにも行かず、
どうせ一人で食べる昼食よりは、
と元就の前に座って昼食をとるのが佐助の日課となっていた。

最初は嫌がられ、退けと言われたこともあった。
しかし、最近では元就も慣れてしまった様で特に文句も言うことはない。

「我に構うな、離せ!」

何時までたっても席を離れようとしない元就に待つことが出来なくなった政宗が
無理矢理元就の腕を引っ張って立たせようとした。

「ah?行くっつったら行くんだ…、よ!」

それでも立つものかと椅子と机にしがみついていた元就も、
政宗の力には敵うことはなく、椅子から離れた。

離れただけなら良かったのだ。

無理に腕を引っ張られていた所為でバランスを崩した元就は思い切り転んでしまった。
おまけに、引っ張られていた腕も本来動かないほうへと曲がって。

「ちょっ、何やってんの!」

すかさず音に反応した佐助が元就に近寄って抱き起こすと、
額から血が流れているのに気がついた。

恐らく、倒れたときにぶつけて、又は切ってしまったのだろう。
ぽたぽたと額から流れる血を見て怖がった周りの子供達が泣き始めた。

「…血」

怪我をした当の本人、元就は冷静で流れる血がついた手を見ながら、
"血"と呟いただけ。泣きもしない。
騒ぎを聞きつけて"おままごと"をしていた元親と幸村も二人に駆け寄ってきた。

「元就殿!大丈夫でござるかっ!?」
「額切るたぁ何やってんだ…」

幸村の心配そうな顔と、元親の呆れ返った声を他所に、
元就は曲がらない方向へともってかれた腕が動くか腕を回したり動かしたりと、
やはり至って冷静な行動をしているのだった。

「おい、猿飛。腕は大丈夫そうだ、早う病院へ連れて行け。血が出ておる」

泣き始めた子供達をあやしていた佐助を"猿飛"と呼び、
服を引っ張ると病院へ連れて行けと命令口調で呟いた。

「政宗、お前の所為だろ」
「What?何で俺の所為なんだよっ」

とりあえず他のクラスの先生に教室を任せ、
佐助と元就は病院へと足をはこんだ。

「おいおい…、どうすんだよ…」

額を切るなんて大怪我じゃねぇか、と溜息を零しながら政宗を横目で見る元親。
何故か悔しがっている幸村と本心は焦っている政宗。

「元就さんが悪いんだろ!」

どうしても自分の非が認められない政宗は、
最後までそういって通し、
表情を硬くしたまま自分の席へとついた。





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