貴方が鍵となる物語
□猫を拾った。‐ある日黒猫は現れる‐
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旧幕府軍の圧倒的不利。
新政府側の圧倒的有利。
そんな中、ある所では僅かながらの平穏がある人物のおかげで保たれていた。
少し前ならどこにでもあった、町の光景。
「っと…、ああ、おはよう。何だい、何か騒がしいじゃないか」
千歳は普段とは違う町の変化に気がついていた。
穏やかで活気のある町が、今日はなんだか騒がしく落ち着きが無い。
「人が倒れてるだって…?何でさっさと助けないんだ!」
「其れがよお、千歳ちゃん。刀差してて血塗れなんだ」
―血塗れ。
―刀を差している。
つまり、幕府や政府の人間だと疑われているということ。
千歳は急いで人だかりのある所へと足を運び、
人ごみを掻き分けて倒れている人物を見た。
「…いいよ、この子は私が預かろう。」
倒れている人物の顔を見るなり表情を歪めた千歳は、
暫く何かを考えた後、自らの家へと倒れている男を運ぶようにと指示をした。
「…生き残り、か…?」
千歳には其れが何者なのかを理解していたのだろう。
今のこの時代の、生き残りの正体を。
そして現状を。
「千歳ちゃん!運んだぞー」
「ああ、ありがとう。後は任せな」
倒れていた青年の手当てをしなくては。
千歳は半ば急ぎ足に自らの営む茶屋へと走った。