めいん

□校内放送で君に届け!
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「よし、いよいよ今日だな、総司」

総司と共に"作戦"を実行する平助が総司より落ち着かない様子で自分に言い聞かせるみたいに呟いたのが聞こえた。
当の本人、総司は特に緊張した様子もなく、平然と放送室の前に立っている。

「じゃ、頑張れよ。土方さんは俺が説得してやるから」

左之助はそれだけ言うとそっと平助の頬に口付けをして職員室へと向かった。

「――――リア充カップルが」

ぼそりと薄暗い声音で視線を下に向けながら声を響かせた。
その声に頬を紅くしていた平助もついぞくりと背筋を凍らせ、総司の様子を伺う。

「.......もういいや、とりあえず放送始めようか?」

次の時にはいつもどおりの薄い笑みを浮かべ、先に放送室へ入った。
何とか助かったと安堵の溜息を零し、総司に続いて平助も放送室へ入っていく。

今日実行される"作戦"というのは、放送委員ならではのもので、
いつもどおり"イケメン二人がお送りするやおいトーク"というキャッチコピーで大人気の二人の意味のない談話を利用して、
というもの。

因みに、やおいの意味は
「やまなし/おちなし/いみなし」。

千鶴に進められてこの言葉にした。
千鶴の本意はそれではないことに、二人が気づくこともないのだろうが、
二人はぴったりだと迷うことなくこの言葉を選んだ。

二人が放送を担当するのは毎週月曜日と水曜日。
昼休み中、つまり昼食の時間から自由時間が終わるまで、ただひたすら喋っている。
その時間約50分。

こんなに喋っていては会話の内容がなくなってしまうのではないかと言われることが多いが、
ほんの小さな身の回りの話でさえする二人にとって話がつきることなど無いに等しい。

今迄で一番好評だった放送は、
学園の姫的存在風紀委員長、斎藤一をゲストに迎えた回。

たまに、ゲストを迎えての雑談をすることがあるのだ。

―――といっても、流石真面目、と言いたくなるような返答しかほぼ返って来なかったのだが、
二人の持ち前の明るさでバランスの良い話に成りえた。

そして一番わけがわからないトークになってしまったのが
無敵の腐女子・千鶴を迎えた回であった。

なにしろ、腐トークしかしないのだから、
周りは理解に苦しむ。

例えば先日買った同人誌の感想とか、
左之助と平助の恋話とか、自分のお勧めプレイとか。

流石の二人もそのときばかりは"自重しろオーラ"が出ていた。

「あ、あと2,3分で始めなきゃ」

放送室に飾られている時計を見上げながら平助が呟くと、
話しやすいようにセッティングされた机の上にマイクを二本おき、椅子に座る。

音楽をかける用意をしていたら、時間になった。
最初は音楽をかけ、これから放送をするということを知らせ、
そのあとに二人のどっちかが始めに喋る。今回は平助だった。

「さあーて!毎回大好評なイケメン(笑)二人が送るやおいトーク、始めるな!」

楽しみに待っている生徒達は沢山いる。
教室で昼食をとりながら、もっと行くと自由時間も何もせずに聞き入っている生徒達もいる。
皆、今回はどんな話をするのかとそれぞれ勝手に考える。

それから、いつもの意味の無いトークに笑いながら、
放送が終われば授業中にまでトークの感想を話していることなど珍しくもなんともない。

「今日は何について喋りましょうかね委員長!」
「毎度毎度思うけどさ、君それ僕の事馬鹿にしてるでしょ」
「馬鹿になんてしてねぇって!さ、早く決めて決めて。皆が待ってるだろ、俺達の話」

いつもと同じように軽い口調で始まった。

「知らないよ、僕に話し振らないでほしいなあ。」
「ちょ、それ委員長の言うことじゃないから!
一年の俺なんかに決められる訳ないだろ?」
「えー、じゃあ委員長命令。今日の会話の内容をどうぞ」

極稀に、最後までトーク内容が決まらずに50分間喋っていることもある。
それでも、苦情の声はあがらず、
面白かったの一言で片付けられるのだから凄い。

「っ、こういう時だけ委員長とか名前使いやがって…!じゃあ――、今日のお題は「恋話」!」
「え? 何言ってるの平助君は」

内心、こいつ最後の話につなげやがった、
などと思いつつ、放送でそんなことも言うわけにはいかない上に、
それはそれで話しやすいかと浅く頷き、再び話を続けた。

「よし、行こう。えーっと、じゃあ平助君の恋の話から聞こうかな。」

にやりと一つ笑みを零し、
平助の表情が強張っていくのも無視して平然と口を動かす。

「平助君は学校一有名なカップルだよね。だって原田先生と、だし?」
「っ何か文句あるのかよ総司!
ああもう、いいからさっさと総司の話しろよ!」
「僕の恋――? 大丈夫、皆興味無いよ」

焦り、どうにか話を逸らそうとする平助は総司に話を振るも返されてしまう。
そんな調子で20分ほど進めていくと、
平助と総司の携帯にメールが入った。

「メール来たね。生徒さんからの質問タイムってことか」
「よし、じゃあ俺の方に来たメールから。えーっと…、って…、え!?」

進行中にもっと詳しく知りたいことがあれば、
二人にメールを送るという方法で質問をし、二人が答えていくということもやっている。

つまり、学校中の生徒ほぼ全員が二人のメールアドレスを知っているということになる。

「何、何てかいてあるの? 
―――お、"原田先生とはどこまで行きましたか"だって。」
「ちょ、その質問俺心当たりありすぎて……」
「うん、僕もそんな気がする」

二人の脳内を過ぎったのは雪村千鶴。
絶対あいつだ、という確信さえあった。

「でもそれはさ、ほら、左之さ…、じゃなくて原田先生の都合もあるし」
「誤魔化すの禁止。さ、早く喋って」
「無理だって!プライバシーの問題です!」
「ああもう、諦めが悪いな」

はあ、と小さな溜息と共に、総司は大声で叫んだ。

「原田先生ー!至急放送室までどうぞ!
あ、原田先生を見つけた人は誰でも良いから、放送室に連れてきてね、よろしく」

総司がそういうと、3分もたたないうちに放送室に左之助は来た。

「おい、総司…。お前分かってるだろ?
俺らの関係が好ましくないことくらい」

呆れ顔で、教師と生徒の恋愛が認められるわけがないと呟いた。
しかし、この学校では左之助と平助の関係が認められているのも事実。

「何を今更、先生達は公認ですから大丈夫ですよ」

今更皆知っているのだから気にすることは無いと説得をするように言うと、
左之助は若干迷いながらも口を開く。

「どこまで、ってそりゃあ昼に言えないようなとこ―――」
「うわあああ、ちょ、左之さん!? 
昼に言えない様な事放送で言うってどうかなあ!」

がた、と勢い良く椅子から立ち、
急いで左之助の口を塞ぐと総司への文句を並べ、それからそんな調子で10分ほど話を進めた。

「―――っとに、何考えてるか分からないから総司は…!」
「っはは、ごめんごめん」
「別に俺は言っても良かったんだけどな、平助が…」
「良いわけないから!」

あれから左之助も含め、残りの時間を過ごすことにした。
不意に平助が時計を見ると、そろそろか、と小さく呟いた。
色々と寄り道してしまったが、今日の"本題"に入ろうとしているのだ。

「っと、此処で学園一のイケメン、次期剣道部部長であり我らが委員長沖田総司から!
学園の姫、才色兼備な風紀委員長、斎藤一君へお伝えすることがある、んだよな総司?!」

反撃だと言わんばかりに笑みを浮かべ、総司に話を振った。

「ん、そうだよ。あー、でも一君が聞いててくれないと困るなあ。
じゃ、もう一回みんなの力を借りよう。
一君を教室に連れてきて。連れてきたらメールしてね」

総司がそういうと、1分もかからずにメールが来た。
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