めいん

□校内放送で君に届け!
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「お、メール受信。…なんだ、珍しい。教室にいるって。」
「運命じゃないの、これ!良かったなあ、総司ぃっ!」

内容を理解している左之助も、
いよいよか、と思わず頬を緩ませる。

「あ、メールの最後あたりに"斎藤君怒ってるよ"って書いてある」
「ちょ、やべぇんじゃね?」

怒らしたら成功の確立が下がると平助が少々慌てるも、
左之助が直ぐに声を挟んだ。

「斎藤、怒らず聞いてやれよ?」

斎藤なら教師の言うことは聞くだろう、と利口なところを少しばかり利用した手に出、
総司のために二人とも口を閉ざした。

「放送でこんなこと言ったら怒るかもしれないけど、怒らないで聞いてね?」

珍しく真剣な声音で呟いた。
勿論、教室や廊下で聞いている生徒達も皆静まり返っている。


「僕は―――、」



僕は、と言いかけ一度そこで言葉を切ると、
言っている本人より緊張しているらしい平助が顔を逸らす。
それと同時に、再び総司が口を開く。

「僕は、一君のことが好きだ」

全校に伝わった告白の言葉。

「こんな形で告白することになるとは僕も思ってなかったけど、
一君のことが大好きだよ。」



だけどこんな形で告白するほか、自分には方法が思いつかなかった。
そう付け足して、くすりと一つ笑む。

「赤点取っちゃう僕と、学年首位の成績をとる一君。学級委員とか風紀委員とか、
自習時間に勉強教えてあげるとか、そんなこと僕には出来ない。
可愛いし、唯一僕が君に勝てる剣道だって、
君は僕の次に上手いんだ。
そんな完璧な君が駄目な僕とつりあうかは分からないけど」

総司にしては珍しく弱気だ、と総司を良く知る人物達は思っていた。

「付き合ってくれると嬉しい」

普通の人間では恥ずかしくていえないような台詞。
でも、そんなこと関係ないくらいに愛しているのだから、恥ずかしくもなんともない。



愛の告白を学校中に轟かせると、それを聞いた生徒達は皆騒ぎ立てた。
斎藤と総司のクラスの生徒たちは、クラスに居た斎藤に"返答は!?"と口々に問いかける。

それに耐えられなくなった、というよりは何を全校に言ってくれているのだと放送室まで斎藤は走り、
思い切り放送室の扉を開けた。

「っ、総司!あんたは何てことを校内放送で…っ」

全力で走ってきたのか息切れをし、苦しそうに呼吸を整えながら必死にやめるよう言った。
しかし時既に遅し。皆は既に聞いてしまっているのだ。

総司から、斎藤への告白を。

「あ、丁度一君が来てくれた。じゃあ言ってもらおうかな、返事。」

急にもほどがあると自分でも思っていた。
しかし、此処で答えてもらえればずっと好きで好きで仕方が無かった相手に、皆の前で認めてもらえる。

「…」

斎藤は5分ほど黙っていた。
その間、斎藤の返事を待っている生徒達は、物音一つ立てずに返答を待っていた。

「――――、俺は」

変に素直なところがある。

絶対に答えないだろうと思われていても、
不意にしっかりと答えを出そうとすることがある。

「俺は、あんたのこと、嫌いじゃない」

不器用な言葉だったけれど。
彼にとっての「嫌いではない」という言葉は、「好き」という言葉に値する。

其れは皆知っていることだった。

小さな頃から同じ剣道教室に通っていた。
そこでどんなに頑張っても剣道で総司に勝つことは出来なかった。
だから、他のことで勝とうと思った。

勉強、内申、もっと色々。

その感情は、憧れであり、"好き"という感情であり、薄い嫉妬でもあった。

でもそんな嫉妬よりも、好きという感情の方がもっと濃密なもので、
心から溢れるくらい沢山あった。


それを伝える日なんて、くるとは思っていなかったけれど。

「―――好きだ」

ぼそりと小さな声で紡がれた。
マイクには入ったのか入っていないのか、そのくらいの大きさの声。

しかし、平助や左之助、もちろん総司の耳にはしっかりと入っていった。

「―――嘘」

自分のことなんて見てくれているとは思っていなかった。
きっと見下されているのだろうと思っていた。

剣道くらしか出来ることはない奴なんだろう、と。
それなのに、相手は自分のことを好きだと言ってくれた。


(嬉しくて、おかしくなりそうだ。)


「ちょ、―――聞いた!?
学園一のイケメンと学園の姫が両思いだって!」

平助が嬉しそうな、明るい声音で大きな声でマイクに向かって言った。

直後、他の生徒からは祝いのメールが届けられる。
平助が当の二人より喜んでいて、泣きそうにまでなっていた。
それを見た左之助は小さな溜息を零し、どんだけ嬉しいんだ、と呟く。



お祝いムード一色の中、不意に総司が斎藤の方を見ると俯いている。
どうしたんだろう、と様子を伺うと頬を紅く染め、
視線を合わせられなくなっている様子で。

「…もう、教室に戻れない」

ぼそりと零された言葉に、総司は"大丈夫だよ"と一言。






                長年想いあってきた恋が実った記念日。







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