めいん

□あふことの絶えてしなくばなかなかに人をも身をもうらみざらまし
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「逢うことの絶えてしなくばなかなかに人をも身をも恨みざらまし、か。」

全く持ってそうだと思う。

そう斎藤は小さく心の中で呟いた。

代わりに大きな溜息を零し、
自室から出ようと立った。

「えー、何それ。一君ってば恋しちゃった訳?」

(嗚呼この声は。)

面倒くさい奴に聞かれたものだ、
と内心舌打ちをしたい気持ちを抑えながら自室の外に座っていた沖田の方を見ながら声をかける。

「盗み聞きとは関心しないな」

軽く睨みつけ、そのまま行こうとすると足を引っ張る何か。

「一君ー、そんな冷たいこと言わないでよー。」

「煩い離せ!」

何か、というのは沖田の腕で、どんなに足を振っても付いてくる。
何て邪魔くさい奴なんだ。

そんなことを思いながら必死で前へ進もうとするも、
自分より身長も高く体重も重い相手に足を引っ張られては前へ進むこともできない。

「僕はね、一君が心配なの。妹のような存在の一君があんな我侭鬼に取られるのかと思うと…」

嗚呼泣けてきた、と大袈裟に目を擦りながら低めの声音で呟いた。
その瞬間、斎藤の顔が驚きに歪み、暫くの間沈黙が続いた。

「何で、あんたが…」

何であんたが俺が風間を想っていることを知っているのか、
そう言おうとしたのだが其れを言っては自ら風間を好いているということをばらしているようなもの。
何とか言いとどまり一つ咳をし、冷静を装いながら横目で沖田を見る。

「否定しないってことはやっぱりそうなんだ。
お兄ちゃんは可愛い妹のことが心配です」

未だに足を離そうとしない沖田に呆れ、仕方なく自分もその場に座り込む。
すると沖田も起き上がり斎藤の隣に座り、右手で斎藤の髪を梳く。

「俺は妹でもなければ弟でもない。それに何より男だ」

ずっと引っかかっていた言葉を吐き出し、少しばかり満足そうに沖田を見る。

「いや、そんなこと言われなくても分かるからね、一君。
君は此処のお姫様なんだよ。ああ、でも姫っていったらまた男だ、なんていうか…」

なんといえば反論できなくなるのだろうかと珍しく深く考え込んでいるようで俯きながら暫くの間黙り込み、
不意に顔を上げればこれでどうだと半ばどや顔気味に口にした。

「宝、華、末っ子!」

「物じゃないから宝じゃないし華でもないし、
華というなら今は雪村だろう。末っ子は平助だ」

折角長いあいだ考えて考えて、その上でだした結論だったのにも拘らず、
全て軽く否定されてしまった。

えー、と文句を呟いている沖田のことは無視をして再度立とうとすると黒い着物の裾を引っ張られ、
突然上に捲り上げられる。
唐突すぎるその行動に斎藤は羞恥と勢いで思い切り蹴りを顔面に決め、一歩下がる。

「痛い!でもまだまだそんな反応を返してくれるなんて嬉しいなあ」

だけどやっぱりそんなところが心配です。

過保護というか頭の可笑しいというのか、
境界線が微妙なところだが先ほどからそんなことしか言わない沖田に対し、
流石に何かおかしいと悟った斎藤はどうしたと声をかけた。

「総司、あんたは一体何なんだ。」

溜息混じりなその言葉に、沖田は目を伏せながら言葉を紡いだ。

「本当、僕は一君のこと大好きだよ。
でもね、一君が風間を好きなら僕にとめる権利は無いと思う。」

思ってもみなかった一言だった。
いつもは我侭でお子様な総司が、真面目にこんなことを言うだなんて。
さすがに予想もしていなかったと斎藤の表情が物語っていた。

「だけどそれはお兄さんとして、ってことにするから。
目の前で連れて行かれそうになったら風間とは戦うし、一君を取り戻すよ。――良い?」


(良い、って聞かれたって。駄目と言ったところで関係は無いのだろう)


「勝手にしろ。それでも俺はお前を振り払って行くかもしれない」

本当はそんなことできるはずもない。その事実はきっと沖田も知っているはず。
分かっていながら冗談めかして言ってみたのだった。
何と反応を返してくるのかが気になって。

「それは嫌だなー。心に傷が付いてそっちで死んじゃうかも。」

冗談に冗談で返された。
斎藤にとってはその程度の考えでしかなかったけれど、沖田にとっては強ち冗談でもない。
大好きな人が離れていくのが辛くないわけがないのだから。

「―――僕も同じ気持ち、」

斎藤は突然聞こえたその言葉に首をかしげたが何でもないと笑って話を無理矢理に打ち切られた。




(君は一生気づかないんだよ。一君が風間に抱いている感情と、

   僕が君に抱いている感情が同じだってことに。でも、気づかないで貰ったほうが楽かもね)





「さ、あっち行くんでしょ。僕はまだ行かないから、先行きなよ」

離したかと思えば今度は押す。
本当に今日はおかしい、そんなことを思いながらも元々土方に用があった斎藤はそのまま行った。

暫くしてから斎藤が確実に行ったと確認できてから、大きな溜息の音が一つ。

「あーあ、逢うことの絶えてしなくばなかなかに、―――なんだっけ。」

この後は覚えていなかった。しかし意味は分かる。




          "逢うことが全くないのなら、かえって、

                  あなたのこともわたし自身をもうらむことがないだろうに。

     なまじお会いするために、恋の辛さが恨めしく思われることだ。"





「それでも僕は、逢わなきゃよかったー、なんては思えない」



          (たとえ目の前で失うことになっても、)
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