貴方が鍵となる物語

□猫を拾った。‐ある日黒猫は現れる‐
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千歳はまず止血と手当てを施し、
布団に寝かせてから暫く様子を見ていた。
それから、洋装から着流しへと着替えさせて。
少なからず身体に打ち込まれていた銀の弾丸。

千歳はこの人物を知っている。

見たことがある。
興味本位で見に行ったことがあるのだ。

「ったく、…しかし銀の弾丸、か。治りが遅いと聞いたね」

傷口から取り除いた銀の弾丸を摘んで、店の外に投げる。
目を細めながら小さく溜息をつくと、恐らく羅刹であるのだろうと考えた。

黒い洋装に身を包んだ白い髪の男が、という噂を耳にしたことがある。
羅刹であるということなのだろう。

「幕府側の負けは目に見えてるじゃないか。どうして其処まで戦うんだい」

千歳は何処か泣きそうになりながら茶屋に来た客に団子と茶を出した。
その途中、先ほどの青年のことを聞かれた。
千歳は苦笑して、大丈夫だと答えた。

「強ち嘘でもなければ本当でもない。それにしても、何時此処にきたんだろうねえ」

来て直ぐに見つかったのなら良いのだが。
そうでなければ、出血の量が多すぎて助からないかもしれない。

「血でも分ければ、回復が早くなるのか…。まあ、弾も抜いたしね。」

――あとはあの子の生命力が、って話さ。

思わず再び溜息が零れて、青年に気をつけながらもいつも通り、
千歳茶屋で客を待ちながら仕事を始めた。





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