貴方が鍵となる物語

□猫を拾った。‐ある日黒猫は現れる‐
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「…?」

倒れている青年を見つけてから数日後、青年の意識が戻った。

「起きた!あんた、ずっと寝てて…!」

千歳は一旦茶屋から戻り、家へ入ってくると起き上がった青年の姿を確認する。
青年が何かを口にしようとしたがその前に千歳は笑いながら抱き締める。

「…!何なんだ、一体」

状況がつかめないと言いたげな顔をしながら視線を泳がせる青年を見ながら千歳は微笑む。

「斎藤一君、あんた倒れてたんだよ。」

千歳の言葉に目を見開いて驚いている斎藤。
どうして己の名前を知っているのか。
何故、彼女に助けられたのか。沢山の疑問を抱いているのだろう。

「さ、起きたならまず栄養をつけようじゃないか。」

そういうなり、千歳は客に出している団子と茶を持ち、
斎藤の元へと戻ってくる。

「直ぐに用意できるのはこれくらいなんだ。後でちゃんとしたものを用意するから」

そうこうしている内、客がやってきて、千歳は茶屋へと戻っていった。
出された団子も口に入れる気になれない斎藤は、
せめて茶だけでもと少ない量だが茶を口にした。

「…何故あの女は俺の名前を…」

身体中に手当てのための薬がぬられていた。
銃で撃たれ、回復が追いつかなかった銀の弾も抜かれているおかげか、
段々とだが傷口は塞がってきているようだ。

(正木君は―――)

己が倒れる前に共に戦っていた正木。
恐らくは、死んでしまったのだろう。

己の所為で。
そう考えればこんなところで休んでいる場合ではないと思えて、
立ち上がろうとした。勿論、立てはしない。

身体中が痛んで己の思うようには動かなかった。
しかたなく上半身だけを起こす形でいると、
千歳は戻ってきた。

「…その怪我じゃ駄目だね。」

それだけいうと、何か考え込むような仕草をし、俯いた。
暫くすると顔を上げ、口を開いた。

「此処で暫く働きな。勿論、金は出す。飯も全部、生活に必要なものは出すからさ」

千歳の営む茶屋は町でも人気があった。
美人な女が一人で茶屋を、ということもあってか、
遠くから来た客も噂を聞きつけてかこの茶屋に足を運ぶ。

つまり、ちょっとした金持ちである。

「会ったばかりのあんたに助けてもらい、その上そこまでさせる訳には…」
「はいはい、いいから!――それに、政府の動きだって気になる…、ね?」

千歳の口から出てきた言葉に、斎藤は驚いているようだった。
当然だ。己が旧幕府軍の人間だと知られているとは思っていなかったのだろうから。

「大丈夫、私は政府なんかには屈しない。まあ、幕府の味方をするわけでもないけどね」

苦笑のような笑いを零しながら、斎藤と千歳は少しだけ他愛も無い話をした。



そして今日から、斎藤は茶屋で働くこととなる。


1-end,→?

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