さぶめいん
□次に目が覚めたら
2ページ/2ページ
「元就様っ―――!逃げて下さい!」
そう聞こえた。
おかしい。
今日は来るなんて言ってなかった。
元就は上手く整理のつかない頭の中で必死に考えていた。
今日は来れるようになったのだろうか。
だから、何も伝えることはなく来てしまったのだろうか。
そんなわけがない。
もし仮にそうだとしたら、何故政宗はこんなにも沢山の兵を連れて来たのだろう。
まだ兵を傷つけることはしていないが、きっと直ぐに始める。
暗くなってきた空に、沈もうとしている日輪。
理解できない頭でぼんやりと日を眺めていれば、
兵の「逃げてくれ」という声に目を覚まされる。
騙 さ れ た の か 。
頭で理解するのには少しばかり時間がかかって、
それで納得するのにはもっと時間がかかって。
それでも何時ものように輪刀を手にして、
何時ものような表情を作って、
目の前に居る政宗を目を細めて睨みつける。
「ah? honeyじゃねぇか」
弦月を兜につけた彼、伊達政宗は、元就の姿を見るなり嬉しそうに口角を上げた。
(違う、これは違う。)
己に会えて喜んで居るのではない。
己を殺すために来て、探すまでも無く獲物を見つけられたから喜んでいるのだ。
でもきっと、まだ政宗は兵を斬っては居ない。
駒達も、突然の伊達襲来に驚いて、万が一を考え逃げろ等と言ったのだ。
これが幻で、何時ものように夜を越せていれば。
そう考えればどれだけそう望めば、己の望みは叶うのだろうと思わず苦笑する。
そんな中にも、政宗の声は聞こえて。
「なあhoney、早々にあんたの牛耳る此処を俺とあんたのもんに――、
勿論、奥州もあんたと俺のもんに、だぜ?」
嘘だ。
そう言って此処を渡した途端、駒を斬り終いには己をも切り捨てる。
そんなこと分かっていると再び睨みつける。
「…何のつもりだ、政宗」
低い声が響くと、政宗は驚いたようで少し焦った。
何か誤解されてしまったのかとでも思ったのだろう。
「勘違いすんなよ?あんたが此処から他をせめて、俺が奥州から他を責めれば―――」
政宗が誤解を解こうと口を開いた途端。
元就が輪刀を振った。
それも、的確に政宗を狙って。
「黙れ、我は貴様となど手を組むことは考えてないわ!」
そんな元就の発言には、周りにいた毛利軍の人間も驚いているようだった。
まさか、政宗に手を出そうとするとは、と。
「元就様!ご乱心でおられるか―――っ」