佐和山1
□悪筆
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「うぅー……」
後から獣が出す様な低い唸り声がする
なんだ?
と後を振向くと左近が小さな紙切を近付けたり遠ざけたり―
たまには透かしたりしながら
うーうー唸っている
「どうした左近?」
「あ…殿…」
左近の顔は何時の自信たっぷりの顔では無く、目はしぱしぱだわ眉は両方力なく下がっているわ…心底情ない顔をしていた
噴き出しそうになるのを ぐっ と堪える
「ぷ…」
「笑いましたね…」
「わ…笑っておらぬ!!どうしたのだ左近、さっきから唸り声を上げて…」
深い溜息を吐いた後、左近が右手に持った紙切を俺の前に ぴら と差出した
「ん?」
「…読めないんですよ…」
ミミズがのたくった様な太かったり細かったり誤字脱字ぐぢゃぐぢゃのコレは―…
「…秀吉様の文ではないか」
「…そうですよ」
言うが早いか左近は眉間を指で押えながら、また深い溜息を吐いた
「…やたら難解な暗号や漢詩や海図も平気で読めるお前が?」
左近にも読めない物があろうとは、何時もは俺が唸っていたら横から助け船を出してくれる左近が…読めない!?
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