企画もの

□coward knight
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昔むかしあるところに、小さな国がありました。

そこには、雄々しい王様と、とても可愛らしいお姫様と、一度も負けたことがない強い騎士がいました。

その3人はとても仲良く、ささやかながら毎日楽しく生活していました。














「今日はブリオッシュなのか」

「うん、あとアールグレイね」

メイドから手渡された紅茶とお菓子を、旦那の自室へと運ぶのは俺様の役目。

そして、旦那の部屋で二人で一緒にアフタヌーンティーをするのが毎日の日課。

「熱いから気をつけてね、旦那」

「分かっておる。ありがとな、佐助」

我らが姫、真田幸村は黙っていれば誰もが見惚れるほどとても可愛らしい。

しかし、話し方は武将のようだし熱血漢で男前。

だから俺様も、「姫」ではなく「旦那」の方がしっくりくるからそう呼んでいる。(それに「姫」と呼ぶと恥ずかしがるから)

でも、ただの騎士である俺様や、城で働いているメイド達にも分け隔てなく優しく接してくれる旦那が、俺様を含めみんな大好きなんだ。

まぁ、俺様はそれに加え恋愛感情まで抱いちゃってるからこれがまた大変なんだ。

旦那の動作一つ一つにドキッとしてしまう。

まぁ、旦那は鈍感だから全くもって気付いてないみたいだけど。

「美味しい?」

「うむ!ほっぺたが落ちるほどに!」

「そっか、それなら良かった」

「やはり、佐助と一緒に食べると美味しいな!!」

「……………ぶはぁっ!!!」

「ど、どうした佐助!?いきなり吹き出して…!?」

「いや、ななな何でもないよ…。旦那は気にしないで…」

……こんなことも、しょっちゅうある。

本当、心臓に悪い………。



そうして二人でアフタヌーンティーを楽しんでいると、コンコンとドアがノックされた。

「幸村様、失礼します」

そうやって俺様の幸福の時間を邪魔したのは、俺様の次に腕が立つ霧隠才蔵だった。

くそっ、才蔵め恨む…

「どうしたのだ?才蔵」

「王様がお呼びでございます」

「なぬっ!?今すぐ行かなければ!!すまぬ、佐助!ぅお父上ぇぇぇええぇえ!!!」

「ちょ、旦那!?走らないで…!!!…って、遅かったか…」

俺様が注意する前に、旦那は叫びながら走っていってしまった。

旦那は、王を異常なまでに尊敬しているので、こればかりはしょうがない。(というより、崇拝の域に達している)

「ってか、才蔵まじでタイミング悪いわー…。せっかくの二人っきりの時間だったのにー」

「それなら俺じゃなくて王様に言ってくれ。俺はただ命令を聞いただけだ。じゃ、もう用は済んだ」

「はいはーい、相変わらず俺様への態度だけ冷たいねー…。とりあえずお疲れさん」

そう言って適当に返事を返して才蔵の背中を見送る。

俺様は一人、紅茶を飲みながら旦那の帰りを待った。













ーーーーー

「お父上、お待たせいたしました」

「急に呼び出して悪かったのう」

謁見の間へ行くと、お父上が玉座に座りどっしりと構えていた。

某が声をかけると、お父上はゆっくりと瞼を開けた。

「幸村、もうお主も17になったのだったな」

「はい!!」

「それで…、そろそろ結婚などは…考えてみぬか??」

自分の顔が、ボンッと真っ赤に染まったのが分かった。

「けけけ結婚でござるか!?そ、某にはまだ早いでござるし、それに、それに…」










某は、佐助が好きなのに…。






いつでも某を優しく見守ってくれる佐助。

あの切れ長の瞳に見つめられると、胸がキュンと締め付けられて切なくなる。

きっと、こんな想いを抱いているのは某だけだろうけど。

だからこんなこと………言えるはずもない。








「なんじゃ?何か気にかかることでもあるのか?」

「い、いえ!!たっただ、某が結婚など………」

「まぁ待て。実はお主に縁談の話がきていてな」

「えええ縁談!?」

「北側の隣国にも、ちょうどお主より2歳ばかり上の王子がいるらしくての。是非とも会ってほしい、と」

「そ、そんなこと……」

「それに、あの国は近頃勢いがあるからのう。もし繋がりが出来れば、この国は更なる発展を遂げるだろう」

「お父上………」

「ただワシは、お主の気持ちを尊重したい。もし嫌だと言うのなら、ハッキリと断って良いのじゃぞ」

もし某が隣国の王子と結婚すると…お父上の国の、更なる繁栄に繋がる…。

民だって、さらに充実した生活が送れるようになるはずだ。

それに、佐助だって某のことなど気にもとめていないだろう。

「お相手が某などに好意を持ってくださるかは分からないでござるが…。某、お会いいたします」

「おぉそうか!では、早速隣国にはその旨を伝えておくからの。下がって良いぞ」

「はい…」


静かに謁見の間を出て、小さな小さなため息をついた。







「幸村様…??」


用事を終え部屋に戻る才蔵が見たのは、ため息をつくいつもと様子の違う幸村だった。

小さなざわめきを胸に感じた才蔵は、静かに幸村に声をかけた。














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