企画もの

□重すぎる愛
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地下へと続く階段を一歩一歩降りていく。

人気のない階段では耳に入ってくるのは自分の足音だけで、吐いた息の白さがこの場所の寒さを物語っていた。

ここは仙台城。

城主である伊達政宗は、誰も―彼の腹心ですら知らない地下室へと向かっていた。


「Shit!相変わらずここはクソ寒いな」

口では不満を言いつつも、これから会う男のことを思うと、無意識のうちに口角が上がってしまう。

あぁ、あと少しで会えるというのにこの時間がとてつもなく長く感じる。

階段の一番下まで辿り着き、目の前にある頑丈な錠がついた古びた扉を押すと、ギギギ…と見た目通りの音をあげ扉は開いた。

中へ進むと、奥では手を拘束された男が俯いていた。

「Hey,調子はどうだ?」

「ひっ」

その男に声をかけるとソイツは肩をすくませて此方を見た。

「そんなに怯えなくてもいいじゃねぇか。なぁ、真田幸村」

「す、すみませぬ政宗殿…」

そうは言っているものも、未だに歯をガタガタと鳴らす姿は、こちらが見ていて可哀想になるほどだった。






この男―真田幸村をここに連れてきたのは1年ほど前だっただろうか。

ライバルとして出会った俺達だったが、いつからか身を焦がすようなその炎を欲しいと思うようになった。

会うたびにその思いは激しく、そして強く俺に刻まれていった。

ただ、その思いが募れば募るほど、アイツの目がただ一人、武田信玄にしか向いてないことを思い知らされた。

感じたものは怒りだったか悲しみだったか、そんなものは自分でさえ分からなかったが、もう自分にはこの感情を抑えることは出来なかった。

伊達軍の忍をつかい幸村を拉致し、上田城に火を放った。

忌々しいクソ忍を含め、城にいた者は一人として生かさなかった。




そして、当の本人である真田幸村はその時以来この地下室で監禁され続けているのだ。

鍛えられた筋肉は痩せ細り、紅蓮の鬼の姿はもう見る影もなくなった。







「また飯は食ってねぇのか」

幸村の目の前に置かれている皿を確認し、ため息をついた。

皿の上には一口もつけていない料理が出された状態のまま置かれている。

ただ、幸村が食べないのも当たり前と言えばそうかもしれない。

なぜなら、手を拘束されている今、食べるとしたら犬のように顔を近付けて食べるしかない。

そんなことは、この男にとってプライドが許さないのだろう。

幸村は皿をチラリと見てから、気まずそうに目線をそらした。

「しょうがねぇなぁ」

そう言って、男の顔を掴み皿へと押し付ける。

その端正な顔にぐちゃぐちゃの米やら味噌汁やらがへばりつき、驚きと恐怖に満ちた視線が突き刺さる。

あぁ、幸村が今俺を、俺だけを見てくれている。

ゾクゾクと喜びが体中に走る。

例え愛情でなくても、この俺を見ていてくれるのならば、怒りだろうと恐怖だろうと何だって良かった。

コイツの視界には、俺がいるだけでいいんだ。

「俺が食えっつってんだよ。俺の言うことが聞けねぇのか?」

それでもなお黙りこくったままの幸村に腹が立ち、顔をぐりぐりと皿に押し付ける。

「アンタがそういう態度なら、もっと別の方法でもいいんだぜ?あぁ、アンタは口移しとかの方がいいんだっけか?」

苛立ちながらそう告げれば、男は涙を流しながらゆっくりと食べ始める。

美しいこの顔が、汚ならしく歪むのがとても愛おしい。

このプライドの高い男が、今や全て俺の言いなりなのだ。






食べ終わりゆっくりと顔を上げた幸村の頬を撫でる。

「アンタの可愛い顔が台無しじゃねぇか」

「やっ…やめてくだされ…っ」

そのぐちゃぐちゃの顔をべろりと舌で舐めれば、とたんに幸村は抵抗の声をもらした。

その顔についた汚れを綺麗に舐め上げ、続いて耳に舌を入れる。

「ぁ…っ、政宗…殿ぉ…や…っん」

耳が弱いコイツは、それだけで甘ったるい声をあげる。

それに合わせて、上半身に手を這わす。

その瞬間、快感に溺れていた顔が一気にひきつった。

「ひ…!!!や、止めてくだされ…っ!!」

制止の声は全く無視してその手を下半身へと移す。

「やめてくだされ…、政宗殿…っ!!申し訳ありませぬ、申し訳ありませぬ…っ!!」

罪はないというのにただただ謝罪の言葉を口にしていた。

いつも無理やりしているので、その恐怖が体に染み付いているのかもしれない。

男は、抵抗することも出来ないままただ言葉だけを紡ぐ。

「なぜ…、なぜ政宗殿がこんなことをなさるのですか…。某が何をしたと言うのですか、もう…もう某を許してくだされ…」

「アンタは黙って俺だけを見てればいいんだよ」

あまりに男が怯えるので、舌打ちをして男の鳩尾を殴る。

「うぇ゙え゙え゙…っ」

幸村の口から先ほど無理やり腹に詰め込んだ食べ物が吐き出される。

やはりこの男は俺の気持ちなんて全然理解していたいのだ。

ただ俺は、アンタに見て欲しいだけだったのに。

触れて欲しいだけだったのに。

愛してもらいたいだけだったのに。

気付かないアンタが悪い。俺を認めないアンタが悪い。

耳たぶを強く噛んで痕を残してから、怯える体をそっと抱き締めた。

俺はアンタが気付くまでいつまでも愛情を注ぎ続けてやるよ。

世界でこんなにもアンタのことを愛しているのは、俺だけなのだから。













end
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