企画もの
□今日、俺様は。
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いつからだろう、こんな気持ちを抱くようになったのは。
忠誠だとか信頼だけじゃ表現できない、愛情だとか愛しさだとか…そういう感情。
主にこんな気持ちを抱いちゃいけないなんて分かってるけど、もう限界なんだ。
だから今日、俺様は、旦那にこの想いを伝えます!!!
昨日となんら変わらない、日だまりが暖かいとある午後のこと。
旦那は、今日も庭で鍛練を続けている。
俺様も、今日も木の上から旦那を見守る。
程よい汗をかきながら槍を振るう旦那の姿は、ずっと見ていても飽きない。
しばらく見ていると、旦那は動きを止めて俺様がいる木の下に駆け寄ってきた。
「佐助っ」
「どしたの?旦那」
「お前なら分かるだろう」
木の下から見上げてくる旦那はニコッと笑って俺様にそう言った。
「はいはい、団子でしょ?すぐに用意してきますよーっと」
そう行って木からヒョイッと飛び降りた。
「ありがとな、佐助」
「旦那は、縁側にでも座って待ってて」
「うむ!」
嬉しそうに言う旦那に背を向け、俺様は台所へと急いだ。
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よもぎ餅とお茶と、ついでに手拭いを持って旦那の隣に座る。
「お待たせしましたー」
「おぉ!!今日はよもぎ餅なのか!!美味そうだな」
そう言っていただきますをしながらさっそくよもぎ餅に手を伸ばそうとする旦那をひゅるりと避けた。
「おーっと、まだダメですよ」
「なぬっ!!もしや、そのよもぎ餅を独り占めする気か!!」
独り占めって…旦那じゃないんだから。
「その前に、ちゃんと汗拭かないと。いつもそう言ってるでしょ??」
苦笑しながら持ってきた手拭いで旦那の汗を拭く。
「すまぬな、佐助」
「いえいえ。じゃぁはい、よもぎ餅」
今度こそ旦那はいただきますをして、よもぎ餅を食べ始めた。
「美味しい?」
「うむ!甘くて、もちもちしてて、いくらでも食べれるでござるっ!!」
「そっか、良かったー」
二人でにこにこ笑いながらよもぎ餅を食べる。
って言ってもよもぎ餅を食べてるのは、旦那だけだけど。
旦那が最後のよもぎ餅に手をかけようとしたとき、さりげなく話しかける。
「ねぇ旦那、聞いてほしいことがあるんだけど」
旦那は伸ばしていた手を止めて、俺様の顔を見つめる。
「どうした…??」
俺様のいつもと違う雰囲気に感づいて、旦那は心配そうな顔をしている。
俺様自身は、普通に振る舞ってるつもりなんだけどねぇ…。
やっぱ旦那には分かっちゃうのかな。
そんなことを頭の中でぐるぐる考えながら、旦那の両肩をつかみ、真っ直ぐその瞳を見つめる。
「……佐助……?」
旦那のことが好きです。
今まで伝えられなかった言葉。
俺様の口から伝えるんだ。
「俺、旦那のことが…「許さぬぞ、しの…家康ゥゥゥゥウウウ!!!」
伝えようとした瞬間、騒音が耳に入ってきた。
「三成殿っ!?」
そこには、息を切らしながら佇む凶王の旦那がいた。
「え、…え?何で…凶王の旦那が…?」
「いや、あの、……あれだ」
「あれ、とは何でござりましょうか…??」
「家康を追ってきたら、たまたまここに辿り着いただけだ」
「いやいやいや、嘘でしょ!?さっきあからさまに“許さぬぞ忍”って言おうとしてたでしょ!?途中で無理やり“家康”に変えただけでしょ!?」
「五月蝿い。その首をはね飛ばしてやろう」
「遠慮しておきます」
「三成殿もよもぎ餅をお食べしますか?」
くっそー…、あとちょっとだったのにな…
しかも旦那は何にも分かってないみたいで、ちゃっかりよもぎ餅とかすすめちゃってるしさ…
「いや、私は遠慮しておく。真田、お前が食べろ」
「まことでござりますか!?それでは、遠慮なく!!」
旦那も、そんな嬉しそうな顔俺様以外に見せないでよ!!
ってか、凶王の旦那もまんざらでもないような顔しないでくれる!?
「はっはっは、もう甘味を食ってたとはな。儂の土産は不要だったかもな」
はぁ…とため息をついていると、後ろから聞こえてくるおおらかな笑い声。
振り向かなくても分かる。
これは、徳川の旦那だ。
「家康殿っ!!」
「家康ゥゥゥウウウウウ!!!」
旦那と凶王の旦那は、一緒に振り返った。
態度は正反対だったが…。
「お、三成もいたのか。ほら、真田、団子なんだが…食べてくれるか?」
「ありがとうございまする!!もちろん頂くでござる!!」
そう言って旦那は団子を受け取ると、さっそく包みを開け始めた。
「徳川の旦那も、旦那を餌付けするの止めてくれません…??」
「真田が喜んでるのだからいいではないか!猿飛も、もっと広い心を持つべきだぞ」
俺様がわざとトゲトゲしくそう言うと、徳川の旦那は全く気にしてないらしく笑いながらそう言った。
これだから徳川の旦那は手強いんだよなぁ…
「どうして貴様がここにいる、家康ゥゥゥウウウウウ!!!」
さっきまで徳川の旦那を睨んみながらなりゆきを見ていた凶王の旦那は、どうやら堪えられなくなったようでそう叫んだ。
「儂には理由がないと真田に会いに来ては行けないのか??」
「貴様は敵だ。勝手に入ってくるな」
いや、西軍同士だけど、一応凶王の旦那も敵だからね!?
「そんな固いこと言うなよ、三成。それに、真田と儂は絆で結ばれているからな!!」
「絆だと…!?戯れ言をほざくな…。この私今ここで殲滅してやる、家康ゥゥゥウウウウウ!!!」
凶王の旦那はそう言うと、剣を抜き出し徳川の旦那に斬りかかった。
休む暇を与えず次々と斬撃を繰り出す凶王の旦那に、それを全てかわす徳川の旦那。
とてもレベルの高い戦いが、呑気に団子を食べている旦那の前で繰り広げられている。
いつもなら「某も交ぜて下され!」とか言いそうなものを、団子を食べるのに夢中になっている。
俺様は、二人が戦っている今がチャンスだと瞬間的に悟り、旦那の手を引っ張り部屋の中に入る。
ぱしゃりと障子を閉め、はぁと息を吐き出す。
外ではまだ戦っている音が聞こえているし、俺様達がいなくなったことに気付いてないようだ。
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