企画もの
□間違った方法
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旦那は俺様のことが好きで、俺様は旦那のことが大大大好きだ。
なんてったって俺様と旦那は付き合ってるし?
なのに、なんで、どうして、旦那の隣に座っているのが俺様じゃなくてムカつく独眼竜なんだ。
「幸村、美味しいか?」
「ふぉひひいへほふぁふ」
「いや、なんつってるか分かんねーから。ちゃんと食べてから喋れ」
「…………っ、美味しいでござる!!」
「だろ?アンタのためにつくったずんだ餅だからな。上手くて当然だ」
「政宗殿がつくったんでござるか…!?すごいでござらぁああああっ!!」
二人は、縁側に座って竜の旦那が土産に持ってきたずんだ餅を食べている。
で、俺様は旦那の護衛がてら木の上で二人を見てるっていうね。
っていうか、俺様の方があの眼帯より甘味つくるの絶対上手いからね。
竜の旦那もデレデレと鼻の下伸ばしちゃってさー。
旦那が可愛いのは分かるけど、それ以前に旦那は俺様のなんだから。
そうやって二人を眺めていると、よけいにイライラとしてきて、どす黒い感情がモヤモヤと胸に溜まる。
きっと旦那は、俺様がこんなドロドロとした感情を溜め込んでるなんて考えてもいないんだろうなぁ…。
そこでふと、ある考えが頭の中に浮かんだ。
旦那も同じ思いをしたら、少しは自分の行動を見直して反省してくれるだろうか…??
少し意地悪な方法だが、俺様は一つの作戦を思いついた。
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翌日。
日課の鍛練も終わり、腹の虫が空腹を告げる。
「今日の甘味は何でござろう…!!」
昨日は政宗殿がつくってくださったずんだ餅を食べたし、今日は佐助のつくったあんこ餅など食べたいなぁ…。
いや、久しぶりにきなこ餅でも良いかもしれない…。
そうやって今日のおやつの想像を膨らましていると、ちょうど佐助の姿が見えた。
「佐助ー!!今日の甘味は何だ?」
佐助の元へ駆け寄って笑顔でそう聞くと、佐助は申し訳なさそうに鉢当てをつけた。
「お、旦那、鍛練お疲れー。いやー、実はこれからお仕事入っちゃって…。」
「そうなのか…。佐助、ムリはするなよ…??」
「大丈夫だって。今日のは簡単なお仕事だし」
佐助は笑顔でそう言うと、風と共にフッと消えた。
佐助は目を離すとすぐに無茶をするから、とても心配だ…。
それを佐助に伝えるといつも「旦那に言われたくないよ」と言われてしまうが、俺だって佐助が心配なのだ。
しかし、今日は簡単な仕事と言っていたし多分大丈夫であろう。
それよりも今の俺にとっては、今日の甘味の方が重要である。
今日は城下町の茶屋に行って甘味を食べることにしよう。
普段は佐助がつくってくれたり、買ってきてくれたりするので、城下町に下りるのは久しぶりだ。
少し楽しみにしながら、俺はすぐに出かける準備を始めた。
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茶屋へと続く山道は、風が涼しくてとても心地が良かった。
「この道も久しぶりでござるな」
たしか、半年前に散歩がてら佐助と共に来た以来である。
あと少しで道が開ける、というときに、聞きなれた声が耳に入ってきた。
「ねー、かすがー、聞いてるー?」
…………佐助??
その声につい反応してしまい、辺りをキョロキョロと見渡す。
しかし、佐助の姿は見当たらない。
「うるさいっ!さっきから聞いているだろう!!」
次に聞こえたのは、上杉の忍であるかすが殿の声。
その声のした方向…頭上を見上げると、木の高いところで二人が話しているのが分かる。
もう仕事は終わったのだろうか、それともこれから向かうのか…
とにかく佐助に声をかけようと息を吸った瞬間、俺はさすけの口から出た言葉で体が凍りつく。
「本当かすがって、良い女だよね〜」
こ、
こいつは何を言っておるのだ!!破廉恥な!!!
し、しかも、お前は俺の恋人ではなかったのか!?
驚きと怒りで俺が固まっている間にも、佐助とかすが殿の会話は続く。
「私をからかうな」
「えー、俺様からかってなんかないよ?美人だし、ほら…体型もぐはぁっ!!!」
「どこを見ている!!」
「いや、だからって殴らなくても……。でも本当もったいないよねー…」
それは、どこからどう見ても、恋人が他の人を口説いている姿だった。
………俺への「好き」は嘘だったのか?
…たしかに、俺は美人でもないし、それ以前に男である。
だからといって…俺の気持ちをもてあそんでからかうなんて酷いではないか…。
あるいは、佐助は優しいから、俺が好きだと伝えたときにムリして付き合ってくれただけなのかもしれない…。
本当は佐助はかすが殿が好きなのに…。
本当のことに気付いてしまった俺は、涙をぐっと堪えて来た道を走って戻った。
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俺様の計画通りだ。
かすがとの雑談を終えて城へと帰ってきた俺様は、小さく口元に笑みを浮かべた。
今日は元から仕事は入っていないし、かすがとあの場所にいたのも偶然なんかではないし、旦那があの山道を通るタイミングで俺様があの話題を切り出したのも、全て俺様が仕組んだことだった。
旦那の顔は見えなかったが、きっと俺様の気持ちを理解して反省してくれるだろう。
あとは、あれは嘘だよ、意地悪してごめんね、俺様は旦那一筋だから、って伝えて旦那を抱きしめてあげるんだ。
このあとのシチュエーションも頭の中でバッチリやった俺様は、旦那の部屋の障子の前に立つ。
「旦那、入っていい?」
「…………。」
「………入るよ?」
返事がないなんて珍しいな、と思いながら障子を開けると、正座をした旦那の背中が目に入った。
いつもと違う旦那の雰囲気に、思わずゴクンと唾を飲み込む。
………やばい、予想以上に旦那を怒らせてしまったようだ。
すぐに謝って誤解を解かなければ…!!
「あのっ、旦「佐助」
旦那は、今まで聞いたことのないような冷たい声で俺の名前を呼んだ。
怒鳴られる、と思って身をすくめるて、旦那は、予想に反してとても小さな声で呟いた。
「すまなかったな」
「………へ??」
何故か旦那が謝罪の言葉を口にし、次々と旦那は俺様を置いて話を進める。
「佐助にたくさんムリをさせてしまった。もう、別れよう」
「……………え?旦那…?何でそうなる「これからは幸せになるのだぞ」
「だからそれは「ほら、こんなところにいないで早くかすが殿のところへ行ってやれ」
旦那はそう言うと、立ち上がって振り返った。
俺様と旦那の目があった。
そのいつも真っ直ぐな瞳は、泣いたせいか赤くなり、少し潤んでいた。
そのまま旦那は俺様の体をぐいぐいと押し、部屋の外に出すと、パシッと障子を閉めてしまった。
何も言えず、動けなかった俺様の耳には、旦那のすすり泣きがいつまでも聞こえていた。
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