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□空回り相対理論
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「やぁっほー優一くーん!」
語尾にハートマークでもつきそうなほど軽快な声で俺の名前を呼んで病室に入ってきたのは神崎さん。
まあ彼女のテンションについては平均的に高い方であるからあんまり気にせずにいられるようにはなってきたんだけども。
今回は、そんなことを言っていられないくらいには、混乱しているのだと、思う。
「…なん、ですか神崎さん、そのカッコ……」
「ん?見慣れてるでしょ?」
「い、いや確かに見慣れてはいますけどその、それは貴方が着るべき服ではないといいますか、」
「ええーいいじゃない、それとも何、似合わない?」
「い、いえ似合うか似合わないかと聞かれたら多分似合ってるんだとは思いますけど俺が言いたいのはそうじゃなくて…!」
混乱するあまりなんだか言わなくていいことまで言ってしまっているような気がするけど仕方ない、落ち着きなんて取り戻そうと思って取り戻せるものじゃない。
確かに今までスーツ姿だとか働く女の人、ってイメージのする服の彼女を見たことはあるけれど(キュンとしたりしたけど)、これはもう予想外としか言いようがなくて――
「ど、どうしてナース服なんですか…!?」
目の前に立つお見舞い客は、何故か俺の見慣れた看護師さんの服を身につけていた。
「なんかさ、臨時バイト。冬ちゃんに頼まれてさ。人手足りないんだってー」
「そ、そんな簡単に…!?」
「うん、まあ点滴とかは触らせて貰えないけどさ、布団しいたり掃除したりするの。んで、休憩貰ったから遊びに来ちゃった」
びっくりした?なんて子供みたいに笑う神崎さんに俺は唖然とするばかり。
いつも突飛な行動を起こすばかりの彼女だけど、今回ばかりは頭がついていける範囲を軽く飛び越えていた。
「びっくりしたなら作戦成功なんだけど」
「…びっくりもびっくりですよ、驚きすぎて息も忘れました」
「よーしっ!」
そう言って満足げに口角をつりあげた神崎さんの真意は読めない。
…純粋なんだか腹黒いんだか。
「あ、今私ナースだからね、なんでも言ってね」
楽しげに、そしてどこか誇らしげにナースをアピールする彼女は、5つ以上も年上だというのにそれらしくなく可愛い。
京介は彼女を嫌いだと言うけれど、俺は――
「優一くん?」
「っえ、あ…じゃあ、その……」
テレビを見たいのでベッドを少し起こしてくれませんか、と言いかけたとき。
下腹部に、小さな変化。
「…っあ……」
「ん?」
「い、いや!その…えっと、…休憩、いつまで、ですか」
「へ?」
俺が聞くと彼女は眉を寄せながらも30分まで、と答えてくれた。
今が10分だから、あと20分。
「…どしたの?」
「い、いえなんでも…!」
言える、わけがない。
今この状況で、…尿意を催した、なんて。
「…?具合悪い?ちゃんとした看護師さん呼んでこよっか?」
「だ、大丈夫です!それよりその、仕事に……」
戻って、と続けようとした瞬間にまた大きな波が来る。
足が自由に動かせない分、我慢もきかない。
こんなことなら早めにしておくんだった…!
「…っ」
「……優一くん」
「な、なん…です、か?」
「もしかしてさ、トイレ行きたい?」
「っ!」
平然とそう問いかけてきた神崎さんの目に戸惑いなんてものはなくて、その分俺の顔が熱くなる。
…気になっている女の人に尿意を訴えるなんて、そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないか…!
「い、いやそのっ!」
「えーと、普通どうしてるの?車椅子で行くの?それとも尿瓶か何かにするの?」
恥ずかしげもなく再度問うてきた(俺はまだ答えてもいなかったのに)彼女にまた体温が上がっていく。
こ、これはまさか俺の尿意を処理していくつもりなのか…!?
「やっ!ほ、ホントに放っておいてくれて…っ」
「せっかくのナースなんだからそれくらいお手伝いするよ。あとそんなに拒否するってことは尿瓶なわけだ」
「う、あ、あ……!!」
だめだ、墓穴をほってしまった。
どうしてこんなに乗り気なんだ神崎さんは、普通引き下がるものじゃないのか…段々俺の方が間違っているような気さえしてきた。
「ひ、一人で!一人で大丈夫ですから!!」
「いや無茶でしょうが、確かそういう道具ってなんかここら辺だって聞いたような……」
勝手にテレビ台の下の方を漁り始める彼女に頭が真っ白になってきた。
確かに、それはそこにある。
「あ、あった。んじゃ優一くん、ズボン脱ごっか」
「や、ちょっ!!」
行動の速い神崎さんはベッドに片膝をつき、俺を自身の身体と左手を使って押さえつけながらズボンに手をかける。
そしてそれは下着と一緒に、そのまま一気にずり下ろされた。