長編

□08
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「ぷはっ…!」


床に膝をつきそうになった瞬間、身体を抱き寄せられ二人してベッドに雪崩れ込み、押し倒されたような体制に。

身体が密着しすぎて心臓が爆発しそうだ。


段々と恥ずかしくなってきて身体を起こそうとすると、それを遮るように彼女は俺の肩に顔を埋めてきた。


「あ、あの、真紀さっ…うあっ!?」


名前を呼ぶと同時に首に鋭い痛み。

……え、噛み…つかれた…?


「や、やだっ…!」


いつもの真紀さんじゃ、ない。

引き離そうと、彼女の肩に手をかけるが、その前に真紀さんの手が俺の胸から下へ這って、


「んあっ!?」


ちょ、う、うそ、そんなところ、触っちゃ…!


「やっ、だ、だめッ、真紀さ…ぁ、ふあ…っ!!」


やわやわと股間を揉み込まれ、変な声が出る。

ま、まさか、これから…っ!?


「やっ…そんな、〜〜っ…!!」


先程のキスで敏感になっていた下半身のそれは、僅かな刺激でも快感を感じ取って、性的興奮を高めていく。

…これ以上興奮するともう身体が逆らえないから、今のうちに止めておけと本能が告げていた。


「やっ、あっ、んんっ…ふ、や、らめっ、真紀さん……」


今の俺にできる精一杯の否定をするが、いかんせん身体が快楽を拒否できずにいる。

このままだと俺、何の準備もないままに…っ!?


「だ、だめぇっ!!」


そんなの、恥ずかしすぎて死んでしまう…!!


「っ!あ…っ」


力の限り叫ぶと、真紀さんは我に返ったらしくばっとベッドから起き上がる。

…あ、顔、赤い…?


「ごっ、ごめん!!こ、怖かったよね、ごめんねっ…!!」


必死に謝ってくる彼女になんだか逆に申し訳なく思えてきて、えーだとかはいだとか、つい曖昧な返事を返してしまう。

それが彼女の更なる不安を呼んだらしく、真紀さんは床に正座した。


「も、もうね、あの、煮るなり焼くなり好きにしてくれていいからその、ほ、ほんとにごめん…っ!!」
「やっ…その、お、俺こそ、すみません……っ」
「いやいやいや!!私が悪いんだよ、ごめん!!」


終には土下座を始めた真紀さんに、何もしていないはずなのに罪悪感が湧いてくる。

慌てて俺も床に座り込むが、何を言っても彼女は頭を上げてはくれない。


「…あ、その、怖く、なかった…ですから…っ!」
「いやでも、心の準備もないままにあんなことしちゃって私…っ!」
「い、いえあのっ、は、恥ずかしかっただけですから…っ!」


そう、恥ずかしかった、だけ。

怖いわけでは、なかったのだ。


「で、でもっ…!!」
「…じゃあ真紀さん、ひとつだけ、我が儘…聞いてもらっていいですか?」
「な、なんでも!!何個でも聞っ…ん!?」


真紀さんが頭を上げた瞬間に、無理矢理唇を重ねた。


「んっ、ふっ…!」
「っえ、拓……ん、」


彼女のように上手くはできないけれど、できる限り彼女がしてくれたように、舌を入れ、キスを仕掛けてみる。

けれどやはり息が長くは続かず、すぐに酸素を求めて口が離れた。


「…拓人、くん……?」
「…俺、も…ほんとのこと、隠してました」
「え…?」


…嫌だ、なんてその場しのぎの感情で放っただけの大きな嘘なのだ。

ずっとずっと、触れられることを、キス以上のことを、待ち望んでいた。


「…抱いて…ほしかったんです」
「っ!」
「…真紀さんのものだってシルシが…欲しくて……っ」


吉良さん、俺、誘うだとか…そんな器用なこと、できないですけど。

本当の気持ち、ぶつけてみますから。


「心の準備、できましたから……」


抱いて、ください。


震える声でそう告白をしたこの日のことは、きっと一生忘れないと思う。



 

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