長編
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目を覚ますと、虚ろな世界に入り込んできたのは大好きな彼女の寝顔。
一瞬びくりと身体が跳ねたが、そういえば昨夜はあのまま寝てしまったのだと覚醒し始めた頭で考える。
(…そういえば、今、何時……)
近くの時計に手を伸ばすと、既に6時を差していて、ヤバイと思ったらしい身体が勝手に跳ね上がった。
(朝練、遅れる…っ!)
ばっと布団から飛び出すと、何故か綺麗に整っている服に気が付く。
…真紀さんが着せてくれたのだろうか。
然り気無い気遣いにきゅんとしながらもそういえばそんな時間はなかったのだと思い出し、慌てて着替えを持って個室のシャワールームへ。
けれど服を脱ごうとした瞬間、首筋にある虫刺されのような跡に気付き、…腰が抜けた。
「これ……っ」
所謂キスマークというものだ。
ああだから昨日、体育があるかないかなんて質問をしてきたのか。
(朝まで残るなんて…っ!)
これでは恥ずかしくてユニフォームもろくに着れない。…どうしたものか。
どうしようかと頭を抱えたとき、脱衣所のドアが開いた。
「え、真紀さん、寝てたんじゃ……」
もしかして慌ただしかったから、起こしてしまったのだろうか。それは申し訳ないことをした。
ごめんなさい、と謝罪を口にしようとした、そのとき。
「っ、え…!?」
座り込んだ俺と同じ目線にしゃがんだ真紀さんが、ぎゅっと俺を抱きしめてきた。
「ちょ、待っ、真紀さん!?」
「んー…おはよー、拓人くん……」
だめだこの人まだ寝惚けてる。
そういえば朝は弱いのだと以前言っていたような気も……
「ひゃあんっ!?」
そんなことを考えていると、先程キスマークを確認した箇所をいきなり舐められた。
思わず昨日の感覚を思い出して、変な気分になってくる。
「ちょ、や、やめてくださいっ!!」
もうそんな時間はないし、なによりそんな、朝から淫らなことなんて…!!
「可愛い…拓人くん、食べちゃいたい…」
だめだ、完全に眠ってる。寝惚けてるどころじゃない、きっとまだ起きてすらいない。
「も…俺、今から練習が…っ!」
「そんなこといわないで、えっちなこと、しよ?」
甘い声で囁かれ、昨日あんなに出したのに、またじんじんと下腹部が熱くなっていく。
けれど今は快楽に身を任せるわけにはいかないのだ。
「い、いい加減にしてください、真紀さんのばかっ!!」
「に゛ゃっ!?」
背中を思いっきり叩くと、真紀さんは奇怪な悲鳴を上げてずるずると倒れ込む。
…やりすぎてしまっただろうか。
「あ、あの、えっと……」
「うー…あれ、…っえ、た、拓人くん?あ、えっと…ご、ごめん!!」
ずざざっと音がしそうなくらい勢いよく後退りした彼女に俺まで驚いてしまった。
「あ、い、いえ…」
「ご、ごめんね、学校だよね!うん、えっと…お、送るよ!」
「い、いえそんな!大丈夫ですから!」
「いやいや、送らせて!えっと…あ、私も着替えるね!ごめんね、邪魔して…」
ばたん、とドアを閉めて彼女は脱衣所を出ていく。
…なんてよそよそしい会話なのだろうか。
それでも何故か、普段よりも真紀さんが近くに感じる。
(…少しは、近付けたのかな)
大人になれるのはきっと、まだ先だけど。
子供から抜け出せるのは、あと少しなのかもしれない。