イナズマ裏夢
□sex education!2
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「ねえ拓人くん」
「なんですか?」
「私あからさまに霧野くんから避けられてるんだけど、どうすればいいと思う?」
仕事からの帰り道。適当にスーパーでも寄って帰ろうと商店街へ行くと、学校帰りであろう拓人くんと霧野くんが目に入る。
私は二人の名前を呼んで手を振ってみたのだが、霧野くんは私に気付いた途端に拓人くんに別れを告げ、早足でその場を去って行った。
…なんかもう、ここまであからさまに避けられるといっそ清々しいというか、まあ結論的に凄く悲しいんだけどね?
「…何か嫌がられるようなこと、したんじゃないですか?」
「……うーん」
うわあ物凄く思い当たる節がある。
多分、いや絶対。
…この間の、雨の日の…。
「…まさかとは思いますが、由岐さん」
「ん?」
「…霧野に、手…出したりしてないですよね?」
あははは、そのまさかなんだな、これが。
視線を反らしながら乾いた笑い声を響かせていると、拓人くんから盛大なため息が聞こえてきた。
「…やめてくださいよ、手当たり次第に中学生を襲ったりするの。…俺、知ってるんですから」
「へ?」
「天馬や南沢さんや倉間や浜野、剣城に狩屋、挙げ句の果てには霧野まで…まったく、次に毒牙にかけられるのは速水ですか?」
「毒牙!?酷い!!そして次に手を出そうとしてる子までどうして知ってるの!?どこの情報網!?」
末恐ろしいわこの子、私の考えと行動が全て読まれているだと…!?
つか毒牙って…いや確かにそうかもしれないけどさ、もうちょっと言い様があるじゃないか…!
私が一歩引いて警戒体勢をとると、拓人くんはまた大きくため息をついた。
『とりあえず、霧野には謝った方がいいんじゃないですか?』
そんなありがたい助言を受け、私は現在、霧野くんの家の前に立っているわけだ。
玄関のチャイムを鳴らすと、中からどたばたと足音が聞こえてくる。
そして数秒後に、ドアが開いた。
「は………」
出迎えてくれたのは、霧野くん本人。
私を見て一瞬にして固まった彼にとりあえず微笑むと、その瞬間、ガチャンと勢いよくドアを閉められてしまった。
「ちょっ、待っ!霧野くーん!!不審者じゃないのよ!ちょっと開けて!」
必死になってそう叫んでみるが、返事は一向に返ってこない。
駄目だ謝るどころか声すら聞いてもらえないどうしよう!こんなことなら拓人くんか誰かを連れてくるべきだった!
「お、お願い開けて!違うの、今日は謝りに来ただけなの!信じて!」
さすがに人の家のドアを外からドンドン叩くのは気が引けるので、近所迷惑にならない程度に叫ぶだけ叫ぶ。
けれどいつまでたっても返事の一つもないので、仕方なく私は諦めた。
「…じゃあ、このまま聞いてね?…あの…本当に、ごめん。な、なんだか、成り行きであんなこと……」
うわ今思い返したら最低だな私。そういえば無理矢理犯しちゃったんだった。
…そりゃ口きいてくれなくて当たり前だ私のバカヤロウ。
「ええっと、……許されるとは思ってないけどさ、その…とにかくごめん。嫌だったよ……ねっ!?」
うわ危ない、あやうくドアの門に頭ぶつけるところだったよ!間一髪!
いきなり開いたドアに心臓を(悪い意味で)高鳴らせていると、またもやいきなり、腕を強く引っ張られる。
そのまま引きずられるように、家の中へ。
「え、ちょっ!?」
何もかもが唐突すぎて頭がついていかない。とりあえず私の腕を引く霧野くんに目をやるが、その表情は見えなかった。
しばらく引かれるがままになっていると、リビングまで来てやっと彼が立ち止まる。
そしてそのまま近くのソファーへダイブ。
…………あれ、何この状況?
……なんで私、抱き締められてんの?
「え?き、霧野くん?」
「……な、さい…」
「へ?」
「…ごめん、なさい。その、別に嫌だったわけじゃなくて、ただ恥ずかしかったっていうか、えっと……」
…もごもごと口ごもりながらそう答える可愛らしい少年に、ついつい苦笑が溢れてしまった。
言葉が見つからなくなってしまったのか黙り込んだ霧野くんは、ぎゅうっと私の背にまわした腕の力を強める。
照れ隠しなのか、それとも誘ってるのか……いや、それはないな。自重しようぜ私。
まあ何にせよ、お許しが貰えて良かった。
「…ありがと、霧野くん」
「………蘭丸」
「え?」
「…名前でいいです」
「あ、えっと…蘭丸、くん?」
そう呼ぶと、彼は私の胸にぐりぐりと真っ赤な顔を押し付けてくる。…確信犯なのか、無意識なのか。…いや絶対に後者だな。
普段は大人びていても、やっぱり子供らしい一面はあるらしい。
可愛い、と呟くと、蘭丸くんは勢いよく顔を上げて私を解放した。