イナズマ裏夢
□好きなんだから仕方ない!
1ページ/3ページ
最近、由岐さんとシていない。
冒頭からいきなり何を言い出すのだこの変態はと思った人もいるかもしれないが俺は至って正常だ。
大体思春期の男子なんてこんなものだろう、…と俺は思う。
す、好きな人に気持ちよくしてもらいたいとか、そういうのは男子中学生のごくごく普通で…健全な考えだろう!?
「霧野?どうした、何を葛藤しているんだ」
「え、あ、いやっ…なんでもない」
そういえば最近、あまり顔を合わせてすらいない気がする。
携帯のアドレスとか電話番号とか、そういった連絡先の情報は一切知らない。
家は知っているがいきなり押し掛けたりするのもなんだか気が引けるし、彼女だって迷惑だろう。
そう思うと、なかなか行動には移せなかった。
(…やっぱ、会いたい…)
虚ろにそんなことを思いながら、俺は神童や浜野たちと別れ、帰り道を急ぐ。
(…あーあ、そこの角曲がったら由岐さんと鉢合わせたりしないかなー)
どこかの漫画みたいに、…なんてな。
生憎とそんなことはなく、ありえないと分かっていながらも少し落胆している自分に苦笑をしながら、俺は家路についた。
家に帰って自室に荷物を置いてシャワーをあびて、再び自室に戻ってくる。
すると丁度タイミング良く、携帯のメール着信音が鳴っていた。
着信画面を見てみると、そこには幼馴染みの名前。
どうしたのだろうと携帯を開き、…思わず携帯を落としてしまうほどの衝撃を受ける。
『由岐さんに、霧野のアドレスと電話番号、教えてもいいか?』
相変わらず絵文字ひとつない素っ気ない文章が、今は猛烈に嬉しかった。
すぐにYESの返事をして数分後、かかってきた電話。知らない番号。これはきっと、いや絶対に。
『もしもし、蘭丸くん?由岐です、番号の登録よろしくね』
久々に聞いた彼女の声。
それだけで、ぞくぞくっと背筋に快感が走る。
「あっ、はっ…はい!」
もっと、もっと話していたい。できるなら、このまま会いにいきたいとすら思う。
『蘭丸くんの声聞くの久しぶりだねー。最近会ってないし』
「んっ…そ、そうですね……っ」
顔が熱くなる。
嬉しい嬉しい嬉しい、そんな気持ちばかりが表出て上手く話せない。
こんなにも、好きなのに。
「……会いたい、です」
ふいに、そんな言葉が口をつく。
電話越しに、由岐さんが驚いているような声が聞こえた。
『え、ら、蘭丸くん?』
「会って、話したいです。ぎゅって…抱きしめてほしい…っ」
止まらない。
塞き止めていた言いたいことが、奥から奥からせききったように溢れてくる。
こんな我が儘、彼女を困らせるだけなのに。
『らっ、ららら、蘭丸くん…!?』
「キスも、したいし…っ、いっぱい、…その、だ、抱かれたい……っ」
言葉の波が押し寄せてきて、自分でも自分が何を言っているのかよく分からない。
けれどなんだか、とんでもないことを言っているような気がする。
「あ、あの!俺…俺っ、」
『…蘭丸くんが、悪いんだから』
「え…」
俺の声を遮って発された彼女の言葉に、俺は数秒の間、思考が停止した。
悪い、って、もしかして、い、色々言ったから、嫌われ…いやっ、へ、変態だとか思われ…っ!?
「ご、ごめっ…!」
『今からそっち行く。いいよね?』
「へっ…?」
電話の向こうで、ドアを開ける音がした。
「え…行く、って、」
『今家にいるよね?だからそこまで行く。してあげるよ、蘭丸くんのしてほしいこと、いっぱい』
ほえっ、と思わず間の抜けた声が出る。
してほしいこと、ってやっぱりそれは今さっき言ったようなことだろうか。
「で、でも今、うちは親が…っ」
『勉強教えに来たとでも言うよ。フォローはお願いね』
慣れた口調、それでも少し息が上がってる由岐さんに、胸が苦しくなるほどドキドキしてる。
急いで、来てくれてるんだ。
「ま、待ってます……っ!」
『ん。じゃあ、あと5分くらいで着くからさ』
その言葉を最後に切れた通話。
名残惜しさは感じるけれど、今からは、それ以上に彼女を感じられるんだ。
「…由岐、さん…っ」
自分の甘ったるい声に驚きながらも、俺は待ちきれずに一階へと降りた。