イナズマ裏夢

□だから好きと言えない
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「ね、拓人くん、シてもいい?」


思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

由岐さんの欲求不満はいつものことだが、ここまで直球に訪ねられたのは初めてだ。

まあ口より先に手が出るタイプの人だから、普段は聞きもしないのだが。


「な、なんですかいきなり…」
「いやー、最近シてないなって思って」
「しなくていいんじゃないですか」
「えっ、酷い!!テスト期間って言うから頑張って我慢したのに!!」
「…倉間とはしてたんじゃないんですか?」
「うっ、いや初日だけ…!……って、待って、なんで知ってるの?」
「っ、べ、別にいいじゃないですか…っ!」


…今回珍しく赤点が一枚もなく、全教科が70点を越えていた倉間を、霧野たちが「どんな勉強をしたんだ」と質問責めにしていたのだ。

その後の倉間の反応を見て即座にその可能性が頭に浮かんだなんて、彼女に知れたらどんな辱しめを受けることか。


「…というか、あれだけ言ったのに」
「だっ、だって可愛すぎた…じゃない!い、いいでしょ!?普段より点数は良かったらしいんだから!」
「それはもういいですから、俺に迫らないでください」
「う、ぐぬぬ…っ」


…俺じゃなくてもいいなら、思いつきでそんなこと言わないでほしい。

俺だけを求めてくれるなら、身体くらい、いくらでも好きに……って違う違う!!何を言ってるんだ俺!!


「そ、そんなこと言って!実は我慢できなくて、テスト期間は一人でシてたんじゃないのっ?」
「なっ…!」


…どうしてこの人はこんなにも執念深いのだろうか。


……言いたくないが、その通り。
…普段彼女に散々にされているせいで、三日四日と我慢すればもう限界なのだ。


いきなり核心を突かれて、つい言葉に詰まってしまう。

…ヤバい、由岐さんの顔が一瞬にしてドSモードに。


「へぇー、やっぱりシたんだ?」
「ち、がっ…!」
「我慢できなかったんでしょ?私にいっぱい気持ちよくされたくて」


…わざと興奮するような言葉で迫ってくる彼女を睨み付けるが、全く効果はない。

ああもう、結局こうなるのか…!


「…っ、」
「ね、一人でするのと私がするの、どっちが気持ちいい?」
「はっ…!?」


そんなの、由岐さんを思い出して一人でするんだから、本人にしてもらった方が何倍も気持ちいいに決まってる。

けど、素直にそんなこと言えるはずもない。

大体、どうしてこの真っ昼間からこんなに本能剥き出しなんだ由岐さんは…!


「そ、そんなこと、どうだって…!」
「いいでしょ?聞かせてよ」


…変態、と怒鳴りつけてやりたいところだが、今この状況でそんなこと言ったら絶対にヤられる。そんな確信があった。


「ど、どうしてそんなこと、聞きたいんですか…っ!」
「…本音言っちゃうと、そうやって恥ずかしがる拓人くんを見たいだけ」
「っ!」


俺の首に腕を回し、由岐さんは空いた手で唇を触ってきた。

かああっと顔が熱くなっていく。


「っや、離し…っ」
「…キスされるの、期待してるクセに」
「なっ…!」


意地悪に笑う彼女に、からかわれているのだと直感する。


「や、やめてください!違いますっ…!」
「そう?じゃあそれがホントか…確かめてみようかな」


…どういう意味、と問い返そうとする前に、由岐さんはゆっくりと俺に顔を近付けてきた。

逃げようにも、身体が動かない。

条件反射なのか、どうしても、身体が彼女を拒否してくれない。

思わずぎゅっと目を閉じて、唇も結ぶ。

けれど一向に、唇に何かが触れてくることはない。

恐る恐る目を開けると、勝ち誇ったように笑う由岐さんの姿。


「…え、」
「ほら、期待してた」
「違っ、だって、あんなに近く…!!」
「嫌なら拒否すればよかったのに。嫌だなんて、聞こえなかったよ?」


…何も言い返せなくなって、思わず俯く。
ああもう恥ずかしい、穴があるなら入りたい…!!


「そーれじゃ、嘘つきな拓人くんにお仕置きターイムッ」
「え、」


肩を掴まれ、ベッドへと突き飛ばされた。

何をされるか、なんて、嫌でも分かってしまう。


「っあ、やめっ…!」
「…今日は泣いたって許さないよ。いつもより激しくするから…そのつもりで、ね?」


…いつも大概激しいが、それ以上だと言うのなら、これはもう本気で覚悟を決めるしかないのかもしれない。

何も言わなくなった俺に、由岐さんは満足気に笑って、キスをしてきた。



 
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