イナズマ裏夢
□こうして弱点は増えていく
1ページ/3ページ
「うわー、こりゃ買い物も行けないわ…」
バラバラと固い何かが突き刺さるような雨の音。
テレビの音さえ掻き消してしまいそうな勢いの暴風。
加えて雷まで聞こえりゃもう外に出る気なんて全く起きないわけで。
まあ運が良いやら(まあ悪くはないんだけど)、こういう日はいつも仕事が休みなのである。
だからまあ、仕事もないわ遊びにも行けないわで、テレビくらいでしか暇が潰せないわけで――
(…あ、そういや鬼道くんに書類整理頼まれてたんだった)
暇だの何だの言っていた私が言うのもなんだが、もういっそ忘れたままでいたかった。
あの人の人使いの荒さといったらもう一国の王宮召使い級…
『ピリリ、ピリリッ!』
…と、ここで唐突に携帯が鳴った。
…ああこれがもし鬼道くんなら凄いなあ、尊敬してしまう。私もう二度と愚痴こぼしたりしませんごめんなさい。
鬼道くんでないことを祈りながらもおそるおそる携帯のディスプレイを覗く、と。
「…マサキくん?」
そこには『狩屋マサキ』の文字。
不測の事態に少々戸惑いつつも、私は慌てて通話ボタンを押した。
『来い、早く来い、今すぐ来い!』
(…用件くらい言ってよね……)
切羽詰まった彼の声に呼ばれて暴風雨の中を傘も差さずに走り抜けたのはこの私、神崎由岐でございます。
…何の用かも分からないのに言われるがままに走ってきた私って、やっぱり相当ショタっ子には弱い。
まあ早く来いだ何だ言うくらいなんだから別にインターホンとか鳴らさなくてもいいんだろう、よし侵入だ。
「お邪魔しまーす…?」
ドタドタドタ。
…そういや瞳子姉さんたちは昨日からどっか出掛けてるんだった。
廊下を走る音がしても罵声が飛んでこないのはそのせいか。
私の方へ向かってくる影にため息をつきながら、姉さんの代わりに説教たれる。
「…マサキくん、廊下は走るなって瞳子姉さんから………ぐふっ!?」
…タックルくらった。
これはまた何時になく熱烈な歓迎である。
痛い、普通に痛い…っつか私今びしょ濡れなんだけど。抱き付いたら濡れるでしょうが。
「…マサキくん、抱き付いてくれるのは嬉しいけどさ、私濡れてるから。先に着替えさせ……マサキくん?」
私がこれだけ話しかけてもピクリともしない。
…心配になって彼の背に手を回す、と。
ふるふると小刻みに、マサキくんが震えていることに気が付いた。
「…え、どしたの?大丈夫?…お化けでも出た?それとも独りぼっちが寂しかった?」
…前者ならともかく後者なら姉さんたちについて行けば良かったのに面倒くさいなんて意地張るから(姉さんから聞いた)。
とまあ候補を二つに絞ってみたのだがどちらも違ったらしく、私の腕の中で彼は首を横に振った。
「…泥棒?G?それとも何、怪しいおじさんに犯されかけた?」
もし三番目が正解なら私はたとえ火の中水の中豪雨の中暴風の中、そいつを踏み潰しに行ってやるけどな。
だがまあこれも違うらしく、さっきよりも私を抱きしめる腕の力を強めて私の胸に顔を押し付けるよう彼は首を振る。
「…じゃあ、どうし…」
瞬間、ゴロゴロゴロと雷の音。
あーこりゃ近くに落ちたな……ん?
「…マサキくん?」
「……か、雷、」
今にも泣き出しそうなマサキくんに疑問符を投げかけると、彼は震えた声で告げた。
……雷?
「…雷、苦手なの?」
小さく頷く素振りを見せ、マサキくんは顔を上げる。その瞳は僅かに涙に濡れていた。
…ヤバい可愛い。
…ああそういえば、音は何かに集中していると全く聞こえなくなる、ってのは本当らしいな。
「…よし、じゃあ気でも紛らわそっか」
「え……」
なんて言い訳をしながら唇を重ねる。
これなら気も紛れる私も暇が潰せる。一石二鳥。うん。
「ん、んぅ……!?」
「…っは、」
ゴロゴロ。
雷がひとつ鳴ったけど、それには気付いていない様である。
これ結構効果的なんじゃないのか。
「…っは、マサキくん、こっちに集中して?」
「む、無理!絶対無理…!」
「大丈夫だから、」
と、ここで稲光によって玄関一帯が明るくなった。
マサキくんは私の腕の中でびくりと震え上がる。
…光も怖い、か。
「…よしマサキくん、目隠しプレイしようか」
「……は?」
「決定ー。おお、こんなところに丁度良い布が」
「ちょ、ま、待てよ、」
光まで怖いとなるともうこれしか手段は残っていない。
目隠しプレイってされる方は結構怖いらしいけど、まあずっと抱きしめてたら大丈夫だよね。
「怖かったらすぐ言ってね」
まあでもこれで雷を感じなくなるんだから、ちょっと怖くても我慢してねマサキくんっ!