イナズマ裏夢

□愛という言の根
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「はっ…ぁ、んっ」舌を差し込まれ俺のそれを引き出され吸われ、こういうときには目を閉じるものなのかなんて戸惑っていたくらいの余裕が吹っ飛ぶ。息がかかるこんな距離で目を合わせる?絶対に無理だ。素直に口内に施される愛撫を受けその味を舌に這わす。そういえば今俺のこれはファーストキスってやつだった。キス、というか口の中を触れ合わせることに何の意味があるのかと思っていたが、これ、は。「ん…ふふ、気持ちいい?」気持ちいい、というか、これを恋人としたいという心境は、少し分かったような気がする。酸素が足りないのか距離が近いからなのか、やけに鼓動が速まる。意図は違うがこれも、『興奮』なのだろうか。俺の口内から唾液を舐めとった彼女に罪悪感にも似た苦味が唇を這うが、俺の口に残るこの砂糖水のような甘さがこの人の味なのだと思うと、それは舌を浸して味わいたくなる。ああくそ、考え方が変態くさい。この人もこんな気持ちなら良かったのに。

いつの間にか髪に差し込まれていた彼女の指先が緩く揺れた。視線を上げた先にいるその人は、迷いを込めた視線を落とし、唇を結び遊ばせている。多分それは、言葉を選ぶときのくせ。「続き、しないんですか」彼女の口から紡がれる線引きを聞きたくはなくて、早口にまくしたてる。この人が起こすすべて、『子供のわがまま』に対するそれだと思っていた。けれど、俺に触れた吐息が熱く甘く濡れていたのは、気のせいじゃない。気のせいじゃない、って、思いたいだけの、やっぱり、『子供のわがまま』かもしれないけど。「もう、『子供だから』は、通用しねえよ」逃げ道を用意させる理由なんて、これ以上作らせない。だから、あんたの『欲』を、見せてほしい。

「…南沢くんは優しいなあ」
「…また、」
「や、『子供扱い』じゃなくて。わたしが吐く『弱音』、ぜんぶ分かってくれるんだね」
「……顔、近い」
「ふふ、照れ隠し」
「…っ」
「分かった、これで最後にするよ。嫌だって思ったら、全力で逃げてね。それ以外は、『照れ隠し』で済ませるよ」

彼女の顔が俺の首に寄る。唇で摘まれて身体が強張った。ああそうか、この人は待っていたのか。俺の中の自分が『対等』になるまで。俺が『言いたいこと』を、言えるまで。「っ、ん」ずるずるとソファから落とされ、今まで腰を落としていたそこに背を預ける。服が擦れる音、髪が揺れる音、吐息がこもる音、ぜんぶがいやらしく思えて脈が早くなった。ごそごそと俺の腰らへんを弄っていた手がそのまま服の裾を捲り上げ、外気に触れる肌にすかさず熱を分けてくる。それはだんだんと這い上がって、体温が揃った頃、胸の突起を掠めた。「っ」普段そこをどうにかするわけじゃない。のに、彼女の指先に欲がこもっているのだと思うと、なんとも形容しがたい充足感が気管を昇る。熱いそれを吐き出せば、弄ばれるその箇所から、じわりと不安にも似た疼きが広がった。

「可愛い」ふと、目が合った。咄嗟にくちびるを噛み表情を固める。一瞬見られた顔は多分、だらしなく惚けていたのだろう。居た堪れず視線をそらす。これ以上俺を責め立てる気もないらしい彼女の舌は、鎖骨から首筋を這っていった。篭った温い声が身体に反響する。「勃ってきた、ね」太ももでそこを何度も擦られる。思わず漏れ出そうになった声をひゅっと飲み込む。くそ、こんな鈍い刺激だけでもう、「そ、れっ…や、やめ」内股をもぞもぞと波立つ甘い痺れに腰が浮く。彼女の柔いそれに擦り付けるように。言ったそばから『口先だけ』になっているのは分かっているのに。「ふふ、そんなに熱いの擦り付けられたら、どきどきするなあ。濡れる前に脱ごっか」やんわりと腰を押さえつけられる。足先に力を込めて快感を逃すまいとする浅はかな無意識にまた顔が火照った。

足の付け根に指が這ってきて、それに引っ掛けるように衣服をゆっくりとずり落とされる。ああくそ、居た堪れない。俺ばかりがそれを欲しているようで、その欲を暴かれるようで。苛つきのような焦りに口を塞ぐ術が欲しくて、彼女の首に腕を絡めた。誘われるがままに口付けを落とす手慣れた様に、肺が質量のない何かに膨らんだ気がした。「…ほんとにはじめて?いやらしくてかわいい」そんなこと思われたいわけじゃない、自分を魅せるなんて余裕もない。それでも、それが俺に向いた彼女の欲だと知った身体は、鳥肌が立つような快感を背中に這わす。「でもごめんね、かわいい顔も声も、魅せてほしいな」全部、気付かれているのだろう。だからこうして、また俺を甘やかす。

ふと目が合った瞬間に、露出したそこに指を当てられる。「見っ…んな、」愚直に反応をしてしまった羞恥をどうにか身体から逃がしてしまいたくて、身を捩りながら声を籠らせる。早くその視線を遮断してしまいたいのに、彼女の唇が首に寄ってきて背を向けることもできない。甘い体臭に、腰が疼いた。「っぁ、待っ…そ、れ」2本の指で、腫れ上がったそれの先端をこりゅこりゅと弄ばれ、腰が大きく畝る。気持ちいい、のに、跳ねるような指使いにだんだんと物足りなさが満ちて、次を求めてしまう。ああくそ、嫌な煽り方だ。

むず痒いそこを指の腹で掻いて、括れを持ち上げて、裏側の細い筋をなぞって、そんな擽るような前戯ばかり。それでも、それは俺を堕落させるには十分で、施されるがままのそれにこのまま可愛がられたいと、彼女が欲を込める指先を、このまま全身で味わって溶かされたいと、そんな熱に浮かされる。淡い刺激が身体の芯を揺らして、その波紋が下腹部から広がる。風邪をひいたときのような怠さと、肺を包むような焦げ付きに、このまま、身を任せてしまいたい。「いいよ。1人でしてるときみたいに、気持ちいいことだけ、感じてて」そんな俺を見透かしたように、彼女の指はねっとりと、肉棒に絡む。「っ、」細く滑らかなそれが張りつめた芯を揉みほぐしながら過敏な肉欲を扱き上げてきて、鼻にかかる篭った声が堪えきれない。時折漏れるだらしのない嬌声が、唇を擽ってくる。「かわいい。おちんちん、むずむずしてきた?びゅーっ、てすることしか、考えられないよね」疼く腰の奥を撫でられ囁かれる。この人の透き通るような凛とした声が、甘ったるく熱を持って卑猥な単語を紡ぐことに、腰が抜けそうなほど興奮した。

息を吐く度肉欲に胸焼けがするのに、それが湧く表層を撫でられて拡げられる。「はっ……ん、ぁ、」唾液を噛むような粘着質な水音に絆されて、だらしなく開いた口から、舌を溶かすような熱い嬌声が吐息のように漏れ続ける。身体を押し付けるように体重をかけられて、今更ながら緊張に心臓が跳ね上がる。このペースも、どうせ計算尽くなのだろう。俺が心地良く溶ける体温も、羞恥と緊張を性感に埋める術も知っていて、甘やかしてくる。「ね、南沢くん。指と口なら、どっちがすき?」理解した瞬間、くらりと、目眩がした。ああもうほんとに、そういう煽り方、やめてくれ。俺が小さく選んだそれに、彼女は笑みを深くして、最後にぐっと、手の中の空気を抜いて吸い付くように絞ってくる。それから、足を広げられて、その間に、色っぽく舌舐めずりを熟す、「……っ」さっきまで絆されていた羞恥と緊張がまたぶり返して、息が上がった。

指が絡み、息がかかる。その舌が態とらしく空気を舐めとる様に、期待と焦燥が募ってまた鼓動が早まる。「すっごくいやらしい顔してる」分かってるなら、これ以上、意地の悪いことしないでくれ。どれだけ握り込んでも指の隙間から抜けていく理性が、自ら戻ってくる前に、侵しきってくれ。「うん、じゃあ、我慢しないで、いっぱいびゅくびゅく、してね」彼女の鼻の先にあるそれが、あからさまに脈打った。

先端、尿道に舌先を当てられ擽られる。「ひ、」視覚が得る情報と吹きかけられる息と、赤くちらつく舌があまりに淫猥で、無意識に凝視していればくすりと喉を鳴らされた。「南沢くん、意外と初心なんだね」意外とってなんだよ、中二で俺はどんな印象持たれてるんだ。あんただって、見た目だけで言えば誠実そうに見える。そんな顔で、いやらしい言葉を吐いて、その視線に情欲を込めるところなんて、…ああこれ今からしばらく離れないな。「っん…ふ、ぁ、」胸に罪悪感のような軋みを覚えて視線を外したところで、敏感な恥部に舌と、唇の感触。不意打ちにだらしない声が溢れた。ぱくりと、その括れまで、亀頭を咥え込みキスマークでも付けるように吸い付いてくる。「はっ、ぁくっ、」唾液で濡れたそこをさらに奥まで咥え込んで、裏筋を舌で擦る。余った肌色を愛撫する手は根元へ皮を引きずりこんだり、玉を弄んで転がしたりと忙しい。

「っ…、っつ、イッ…ぁ、い、く」上下し始めた頭に下腹部、その奥が熱に痙攣した。無理だ、もう保たない。指先がどうしようもなく疼いて彼女の服を掴む。頭よりはましだろ。「はっ、ぁ、イく…神崎っ、さ、」快感が内腿を這っていく。その波が昇ってきて、頭が熱に濡れていく。伝う涙が頬を焼いているようで、その火傷が疼く。回りきった充足感に押し出されて、吐精の感覚が顕著になる。「ぁあッ…く、はぁっ、神崎さんっ、」彼女の名前に堪えきれなかった熱を込めると同時に、ひどく甘い痺れが尿道を這い上がって漏れ出していく。あ、待っ、てくれ、いま、口の中に、「〜〜っ、は、ぁっ、ん…あ、ふっ」数回に分けて射出されたそれを、脈打つ肉棒を咥え込んだまま飲み込んだ神崎さんは、そのまま尿道に残った液体まで吸い上げる。そんなことまでしなくていい、甘えっぱなしで居た堪れないだろ。

「ん、はぁ…美味しい」
「…美味しいわけないだろ」
「ええ?美味しいよ、確かめてみる?」
「や、やめろ!」
「んふふ」
「…な、なんですか?」
「あれっ、戻しちゃうの。南沢くんの遠慮のない言葉遣い、好きだなあって思ってた」
「……そう言われたって、意識してどうにかなるものじゃないです」
「ええー」

軽口で誤魔化されたが、『美味しいわけない』それ、飲ませたのは俺だ。期待をしなかったわけでもないが、実際にされると充足感より申し訳ない気持ちが先に立つ。それに。「…あんたは、いいんですか」続きは、しないのか。このままでは俺ばかりが醜態を晒している気がする。自らの痴態なんて思い起こしたくないから詳しくは考えないことにしたいものだが。「『それ』は、南沢くんが高校を卒業する頃くらいに、『悪い大人』になってたら、考えるよ」明確な線引きをされたことに不満がないわけではないが、それを正論にできるほど、彼女の言い分が間違っているとも思えない。俺は子供で、彼女は子供のわがままを聞いていただけ。けど、この人は多分、そのわがままを聞くのが好きなんだろう、と思う。いくらでも利用しろだとか、大人は有効に活用すべきとか、出来た大人らしいことを言いながら、この人は自分のために、俺のことを利用している。「…ずるいんですね」それは、なんだか堪らなく、満たされる気分だった。
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