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ネタのメモ。
ほんとうにメモ。
◆no title 

※オリオンの刻印

吉良ヒロトと秘密の歪み

トントン。静けさを演じるノックに口元が緩んだ。わたしが声を返すその間にも、彼の唇は欲に濡れて震えているのかと思うと喉が鳴る。いつまでも待たせてあげたいけれど、わたしもそれほど、我慢がきくタチじゃない。「どうぞ」ままならない呼吸でそう吐き出す。開いた扉の向こうには、ラベンダーの瞳が俯いていた。

「どうしたの」
「……分かってん、だろ」
「分からないよ、たいした用じゃないなら早く寝なよ」
「っ、だから……い、いつもの、だよ」
「分からない、なあに」
「………、て、くれ」
「なに」
「……虐めて、くれ」

事の始まりは、不動くんとのあれやこれやを見られた次の日のことだった。誰にでもするんだろと迫ってきた吉良くんに、普段ならば流されるように応えるはずなのだが、あの日は妙に、あまりに、とてつもなく、虫の居所が悪かった。あれほど不快感ばかりが渦巻く日も珍しい。可愛らしい吉良くんのおねだりも、耳障りな雑音に聞こえてしまって吐き気がした。

そんなこんなで吉良くんのおねだりを拒否してしまったあの日から暫く、彼が再びわたしに詰め寄ることはなかった。つまらないわたしに興味がなくなったのだろうと思っていた。けれどある日、また、吉良くんがわたしの肩を壁に押し付けて、震える声で、言ったのだ。「頼むから、イカせて、くれ」ずっと、わたしと不動くんのなんやかんやを思い出しては勃起するのに、一度もイけないのだと、吉良くんはそのラベンダーの瞳を潤ませて言うのだ。待った待った情報量が多い、どんな性癖だ。たしかにここ最近、彼の調子が悪そうだとは思っていた。けれどそれがまさか欲求不満が過ぎたことによるもので、ましてその原因がわたしだなんて考えるわけもなくて。可愛らしい吉良くんはおねだりをしながらまた、ジャージの中に1人ではどうにもならない欲求を隠していたらしかった。

けれどあの日は、ありったけの力でわたしを拘束する吉良くんを、基山くんに見つかってしまった。抱え込んだ性感があまりに膨らんで、意識で力に加減をつけられる状態ではなかったのだろうけれど、どうやら傍目には吉良くんがわたしをぶん殴ろうとしている絵面に見えたらしい。慌てた基山くんに引き剥がされた吉良くんは、ふらりと呆気なく、自室に戻っていった。

「勝手にしてなよ」
「……ベッド、借りる」
「どうして?立ってできるでしょ、ベッド汚さないで」
「っ、……ん」
「早く終わらせてよ」
「ん……」
「わたしの自由時間まで拘束しないで」
「ん……っ、ふ、ぅ」
「…ほんと迷惑」

吉良くんは虐められるのが好きらしかった。おそらくそれが、最も彼の性的欲求を満たす感情なのだろう。特にわたしのような、競うものもない相手から向けられるそれは、また格別に。けれど、そうして暫く彼を観察して、気が付いた。彼は、必要とされないかもしれない、という不安に、ひどく興奮する。「ーーなんて嘘だよ、もっといっぱい、吉良くんの可愛いところ見せて」そして、その不安から解放される瞬間に、やっと、絶頂を迎えられるのだ。

「あっ、ぁくっ、〜〜っぁん、ッあ!」気付いてしまった。気付かせてしまった。偶然でも必然でも、最終的な事実はそれだけだ。この先吉良くんが、それを理解し愛してくれる人を見つけられるまで、きっとこの関係は続くのだろう。「早いなあ、残念。また、いつでも来てね」だからわたしはありったけの愛を込めて、今日もきみに、大きな大きな意地悪を吐く。

2019/04/07(Sun) 05:08

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