チビと俺

□第1話 捨て猫
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 ――ザァァァァァ――

 1月の下旬。寒いのに、朝からの雨。校内でのランニングなんて他の部活に先を越されている。部活がないことは分かっていたが一応部室に集まっている俺たち崎玉高校野球部。

「どうします、タイさん」

 俺は部長であるタイさんに、答えは分かりきった質問を投げかけた。

「イッチャンはどうしたい?」

 俺の名前、市原豊の名字をとって付けられたあだ名『イッチャン』。

 これは野球部全員の呼び方だ。

 しかし、野球部と言っても、俺を含めた『1年生』が中心で、2年はタイさん1人だ。そして、なにより人数が足りていない。

 

「どうしたいって……やっぱり、この雨の中じゃできない、ですよね?」

「うん、だろうな。うん、てことで今日は解散!」

「うーす」

 タイさんの掛け声で、部員たちは荷物を持ち、部室を出ていく。

(俺も帰るかー……)







 雨が降る中を自転車で帰るのはつらいので、折りたたみ傘をさして歩きで帰る。

 時折ふく冷たい風に対し、マフラーに鼻まで顔を埋めた。

(家帰ったらなにしよ……)

(特に宿題はなかったはずだし……)

 ピチャピチャと足を地面につけるたびになる水音。車が水をはじく音。雨が地面にぶつかる音。

 そんな雑音は右から左へと抜けていく。ただ、ボーッと足元を見て歩くだけ。

 歩きなれた道。後3歩進めば行けば家に着く。




 3歩、進んだ。


「…………」

 そして俺は『それ』を見て言葉を失った。

 家の前で、正確に言うと門扉の前にいるのだ。『それ』が。

 地面に直接座り、小さく丸まっている幼い少女は、傘もカッパも使わずびしょ濡れ。小学4年生程度だろうか。とても小さい。

 その少女の横には自転車と、体に不釣り合いな大きなバッグ。

「お、おい、大丈夫か?」

 声をかけてみるも、いっこうに立ち上がろうとしない少女。俺は少女の前にしゃがむ。

「おい? ……寝てんのか?」

 小さな小さな肩に手を置いた。

(うわ……冷てぇ……)

 少女の肩、いや、少女の体はとても冷たい。

(……どれくらい雨に打たれてんだ?)

「おい! お前どうしたんだよ」

 少女は顔を上げた。

 しかし少女の前髪は長く、顔は結局のところ見れない。

「おばさん、は?」

「おば……? あ、母さん? 今日は帰ってくるの遅ぇぞ?」

「………………」

 母さんを待って、こんなに濡れたのだろうか。そんなにも急ぎの用事なのか。

 俺はこいつをこれ以上外に出しておくなんて耐えられない。

「母さんに用事があるのか?」

 少女はうなずく。


「ほら、そんなに濡れてたら寒いだろ? とりあえず入んな?」

「……」

 少女はまた、無言でうなずいた。




   

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