チビと俺

□第3話 フーフー
1ページ/4ページ






「………………かっ!」

「ゆ……かっ!」

「豊っ!」


 ――バシンッ!――


「いって!」

 心地よい眠りを、大声と脳天にくらった痛みで起きた。

 正確に言うと大声で起きたのだが、起きた直後に脳天にゲンコツをくらった。


「寝てないでさっさと日余里ちゃん運んでよ!」

「は? 運ぶ?」

「もう家に着いたわよ」

 車のドアの外を見ると、日常化された、とても見慣れた風景が目に入る。

「あ、ホントだ」

「ほら、早く日余里ちゃん家に運んで」

「…………は?」

「は?」

 俺の間抜けな声をやまびこしたように返してきた母親。

「いや、何で日余里を俺んチに運ぶわけ?」

「うるっさいわねー。さっさと運びなさい!」

「………はぁ」







 日余里と日余里のバッグを持ち、家の中へ。

(俺はパシリか……!)

「あ、豊」

「あ?」

「日余里ちゃん、豊のベッドで寝かせておいてね」

「はぁ?」

「ソファじゃ可哀そうじゃない」

「……それなら母さんのベッドで寝かせればいいじゃねぇかよ」

「あら、駄目よ」

「何でだよ」

「今ベッドの上、散らかってるの」

「なんそりゃ」

「豊のベッドは綺麗でしょ?」

(綺麗ってほどじゃないけど散らかっては……ねぇな……)

「ほら、早く行った行った!」

「……何か乗せられてる気がする……」







 何故か俺と一緒に、俺の部屋に入ってくる母さん。

 日余里をベッドに置き、毛布をかけた。

 ――ピリリリリ、ピリリリリ――

「あ、沢から……」

 沢とは同じ1年で野球部の沢村のことだ。その沢から電話。


 どうせたわいのない話だろうが何故か親には聞かれたくない子ども心。

 俺は部屋の外に出た。


「もしもし?」

「あ、イッチャン? 沢村だけどー」

「おー。どうした?」

「古典の宿題分かる?」

「あー? 確かやり残したプリントじゃなかったっけ?」

「プリント……? あー……あぁ! そうだった! ありがとうな!」

「どーいたしましてー。今度何かおごれよー」

「はいよー」




 ――ガチャ――

「あれ、日余里起きてる……?」

「…………」

 顔が微妙に俺の方向を向いた。やはり顔は前髪のせいで見えない。

「冷えピタ貼ったら冷たくて起きちゃったみたい」

「冷えピタ……? 額に?」

「そうよ?」

(てことは母さん、普通に日余里の顔見たってことじゃん!)

(あー、何か損した気分。沢め、今度すっげーおごってもらおう……)




「日余里ちゃん、オカユ食べれる?」

「…………少し、なら……」

「よし、じゃあ作ってくるね」

「豊、ちゃんと看病してね」

「は、俺が!?」

 ポン、と俺の肩に手を置き、俺の部屋を出て行った母さん。



「…………日余里、水飲むか?」

「…………」

 顔を縦に振るのでもなく、横に振るのでもなく、顔を斜めに傾けた。

「……それはどっちだ?」

 また、傾けた。

「あー、飲みたいわけじゃないけど飲みたくないわけじゃない、みたいな?」

 必死に考えた結果だ。

 それに日余里の顔は縦に揺れた。

「じゃあ一応持ってくるな」





Next page→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ