チビと俺

□第4話 決心
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「日余里ちゃんは?」

「ちゃんと寝た」

 食卓にならべられた夕飯。

 俺の隣には弟が、前には母さん、その隣に父さん、祖父は温泉旅行に行っている。

「日余里ちゃんか、懐かしいなー」

 父さんが一言、ボソリと呟いた。

「え、父さん日余里のこと知ってるの?」

 俺はてっきり日余里の知り合いは母さんだけかと思っていた。

「あぁ、知ってるさ。この前会ったのは……だいたい2……いや、3年前かな」

「へー」

「……つかさ、今日日余里ウチに泊めんの?」

 俺は目の前にあったブロッコリーを箸でつかみ、それを口の中に入れた。

「あら、駄目なの?」

「いや、そういうわけじゃねぇけど……」

「日余里ちゃんにフーフーしてオカユ食べさせるくらい仲がいいのにぃ」

「あっ! この……!」

 そう、あの、フーフーを母さんに見られていたのだ。

 いつのまにか俺の部屋に入っていた母さん。

(俺はそれにずっと気がつかないでずっと……フーフーを……!)

(思い出すだけでも恥ずかしい!)

「何? 兄ちゃんがフーフー?」

「てめぇは黙っとけ!」

 今まで隣で黙々と食べていた弟が、いきなりニヤリと俺を笑う。

 父さんは父さんで、何も言わずニヤニヤと。

「あー! もういい! ごちそうさま!」

「あー、照れてるぅ! かーわいーい」

(あー、もうこの母親は……!)




 もう、恥ずかしくてその場にいられない。とりあえず自分の部屋だ。

 物音を立てずに、コッソリとドアを開け、中に。

 ベッドでは、少し辛そうに眠っている日余里がいる。



(あ、布団が……)

 足元のほうが少し、落ちかかっていた。それ直し、気がついた。





(俺、今日どこで寝るんだよ)








 ――バンッ!――


 弟も父さんも母さんも夕飯を食べ終わっていた。

 母さんだけがリビングにいて、食器を洗っている。

「何、どうしたの?」

「……俺、今日どこで寝るんだ?」

「え、あぁソファ?」

「はぁ!?」

 日余里がベッド使うのに異論はない。ただ、何で俺がソファで寝なくてはいけないのだ。

 明日は土曜日。部活がある。首を寝違えたらどうするんだ。

「母さんがソファで寝ろよ!」

「いーや! 母さんじゃなく、父さんに頼みなさい」

 父さんは明日も仕事があると言っていた。俺たちのために働いている父さんにそんなことを頼めない。

 それを知ってこの母親は……!


「…………」

 台所しか点いていない電気。そこの下で1人、ただただ食器を洗っては拭いて、食器棚に片づける。毎日そんなことをしているのだ、この母親は。


「……手伝う」

「あら? 珍しいわねー」

「うっせ」

 母さんが洗った食器の水気を拭き、食器棚に片づける。

「あ、なー母さん」

「んー?」

「日余里と母さんっていったいどういう関係?」

「変なこと聞くわね……。まぁ……強いて言うなら姪っ子だわ」

「姪っ子……? 母さんの兄妹の子どもって意味だよな? そしたら俺の従妹?」

「違うわよ?」

「は?」

「血の繋がりは一切、ないわ」

「はぁ?」

 “訳が分からん”と母さんを見れば、何とも言えない瞳で食器と向き合っていた。

 その瞳から、水がこぼれてきそうな、でもそれは絶対になくて。

 これ以上は、聞きたくなかった。





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