チビと俺

□第5話 嵐の1日
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「行ってきます」

 家に挨拶をして、駅に向かう。

 昨日、帰りに雨が降ったために学校に自転車は置いてきたから今日は電車。

 帰りは自転車で帰ってくるつもり。


「イッチャーン!」

「は?」

 後ろを振り向くと沢の姿。

「あれ……、沢? 何でここに?」

「午前中、ちょっと出かけてたんだー。そいでこっちにきたからイッチャンと一緒に行こうと思って」

「出かけてた、って部活の道具持ってか?」

「うん」

「ご苦労なこった」

「ははっ」

「まだちょっと時間あるからコンビニよろうぜ」

 沢は忘れているだろう約束を果たしに行くのだ。






「いらっしゃいませー」

 学校最寄の駅近くにあるコンビニ。ここはよく使わせてもらっている。

「イッチャン、何買うの?」

「ん? 俺? 何も買わないよ?」

「え? じゃあ何で来たの?」

「古典」

「古典……がどうしたの?」

「おごり」

「おごり……あぁ!」

「約束通りおごってもらうぜ!」

「わ、忘れてた……」


 俺は『いいな』と思ったものをポイポイ沢の持っているカゴに入れていく。

 あ、ある程度の限度は守ってるからな。

「ちょ、こんなにかよ!」

「俺ぁなぁ、あの電話のおかげですっげぇ後悔したことがあんだよなー」

「うっ……わーったよ! 買ってやるよ!」

「おっ、男前じゃんっ!」

「今言われても嬉しくねぇし!」

 背中をバシッと叩かれ、俺も沢の背中を叩いて笑いあう。

「はははっ!」



「あれ? 豊じゃんっ!」

「え? あ、鈴美じゃん!」

 俺は入口にいる少女に駆け寄る。

 彼女の名は国原鈴美。俺の幼馴染だ。高校は違うものの、幼稚園から中学までは同じクラス。ちなみに小学生まではご近所だった。


「何、豊誰? その美少女」

「び、美少女ぉ? こいつが?」

 美少女という称号を貰った鈴美だが、俺はこいつにその称号を与える気はどこからも浮かばない。

「失礼な。そこの人っ、ありがとう! お世辞でもすっごく嬉しい!」

 ショートヘアーの毛先を少し揺らし、沢に笑顔を振りまく。

「お世辞だなんてっ! ホントに可愛いし!」

(あぁぁぁ、沢、こいつに騙されるんじゃねぇぇぇ!)

 そう思っても沢の頬はピンクに染まる。

「沢、まじで言うがこいつはやめておけ」

「は? 何で? すっげーいい子じゃん」

(はっ、こいつがいい子?)

(アリエン。こいつは男を落して、からかうのが趣味なんだぞ)

(時には彼女のいるやつ狙うし……)

(結果的にはそのカップルの仲は深まってるからいいんだけどさ……)

(…………こいつが美少女、ねぇ……)

(158センチだっけ?)

 男にとってはちょうどよい身長。それでいて胸はあってウエストは細い。尻も……。

 ようするに、ボンキュボンだ。

(俺だってスタイルがいいのは認めるが……普通じゃねぇ?)

 小さいころから見ているからなのか、鈴美を可愛いなんて思ったこと、そうそうねぇ。

(あっても怪談話をまじで怖がってるところぐらいじゃね?)

(や、それでも顔を可愛いと思ったことは、ねぇ)




 そんなことを頭の中で考えていると、目の前の2人がメルアドと携番を交換しているではないか。

(……あいっかわらず、手のはぇえやつ……)

「おい沢、もうそろそろ行かないと」

「え? うわ、まじだ」

「あ、じゃあね鈴美ちゃん!」

「うん、今度2人で会おうね真人君!」

 口に飲み物を含んでいたら盛大に噴き出していること決定。

(もう名前呼びかよ……)





 コンビニを出て、学校に少し早歩き。

「鈴美ちゃん、可愛かったなー」

「なぁ、今鈴美ちゃん彼氏いんの?」

「いるんじゃねぇの?」

「えぇ!?」

「嘘、いねぇって」

 今も時々メールが送られてくる。

 鈴美とのメールは意外と楽しいので、まったくと言っていいほど迷惑ではない。

(……あれ? そういえばあいつ、彼氏作ったこと……ねぇ?)

(いつも相手惚れさせて、それで終わり……だよな?)

(……まぁ好きじゃないやつと付き合うほど、駄目なやつじゃねぇからな)

「今度会おうって言ってくれてたよなー」

 もう、羽根が生えてきそうなほどに浮かれている沢。


「沢、もう1度言うが鈴美はやめとけ」

「何でだよ? ……あ、もしかしてイッチャンも狙ってんの!?」

「『も』て何だよ『も』って! 何? 沢あいつのこと好きなの!?」

「やー、もう好きかもしれねぇ」

(す……すげぇ……)


「あ、で? イッチャンも鈴美ちゃん狙いなの?」

「んなわけあるか」

「まじで?」

「まじだっつの」

「よかったー」



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