チビと俺

□第9話 女が泣く日
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「ただいまー」

「おじゃま……します」

「は?」

「え?」

「あ、いや……」

 日余里が『ただいま』ではなく、『お邪魔します』と口に出したことに俺はとてもビックリした。

「日余里……なんで『ただいま』って言わないんだ?」

「……ここ……私の家……じゃない……」

「そうだけど……」

 その言葉に余計に悲しいような、悔しいようなん感情が心に渦巻く。

「一応今はここに住んでるじゃん。その間だけでも『ただいま』って言ったら?」

「…………た、だいま……」


「あ、おかえりー! って何そのクマ!」

 母さんの小うるさい声が玄関に響く。俺の横に立っている日余里は泣くのを必死に我慢しているように見えた。







「あ」

「豊?」

 ポケットに入れておいたマナーモードの携帯。

「電話」

 それを日余里に見せながら部屋を出る。


「もしもし?」

「あ、豊ー?」

「……何だよ……」

「む、何よその嫌そうな声!」

「別に嫌じゃないっつーの」

「嘘は泥棒の始まりだよー?」

「だから嘘じゃないって。どうした? 電話なんて珍しいじゃん」

「あー……。うん……」

 高い声が、だんだんとしぼんで、声が小さくなる。

「……どうした?」

「今日……さ……豊、どこか出かけてた?」

「え? あぁ、出かけたけど……」

「そ、っか……」

「おい?」

「……………………」

「…………もしかして……泣いてる?」

「んなっ訳! ……な、い……じゃ…………っ……」

「んな訳あるじゃねーか! どうしたんだよ……」

「豊かに……は、関係……ないっ……もん……」

「……お前、今どこ? 家?」

「……公園」

「公園? 昔よく遊んだ?」

「うん……」

「今行くから、ちょっと待ってろよ」

 電話を一方的に切った俺。


「日余里、俺ちょっと出かけてくるな」

「あ、う、うん……」

(日余里……?)

 あからさまに日余里は動揺している。しかし俺は、それを打ち飛ばして鈴美のいる公園に自転車をこいだ。

 昔よく鈴美と遊んだ公園は、遊具が何個かあり、俺の家から1キロもない。昔は鈴美の家も近くにあったから、よくそこを利用していたのだ。






「鈴美!」

 公園につくと鈴美はベンチに座っていた。

「豊……」

 自転車を止め、鈴美の元にかけよる。

「どうした?」

「…………別に……何でも……な、い……」

「それが何でもないやつがする顔かよ……」

 俺は鈴美の左隣に腰を掛ける。

「何があったんだ……?」

「………」

 無言の鈴美。

 鈴美はあまり泣かない。泣くときは怪談話を聞いて怖くなった時か、本当にツラいときだけ。

 人にあまり弱いところを見せない。ツラくても無理やり笑って他人を笑わす。

「別に無理に聞かないけど……。お前が泣き止むまでは一緒にいるからな」

「……私が……一生泣き止まなかったら……どう、するの……」

「泣き止むまで一緒にいるって言ったばかりだろ……」

「バカ……。豊なんか……嫌いっ! 大嫌い!」

「勝手に嫌いになってろ。お前が俺嫌ったって、俺はお前を嫌わないし」

「…………バ、カ……! 豊なんか……大っ嫌い……なん、だ、から……っ……!」

 鈴美は、俺に抱き着く。

「うおっ!? …………バーカ」

 俺は鈴美の背中に手を回し、もう片方の手で頭を撫でた。






「……おい、鈴美? おーい……。このアホが……」

 鈴美は泣き疲れたのか、俺に抱き着いたまま眠っている。

「よい、しょっ……っと…………相変わらず軽いなー」

 姫抱っこではなく、片腕に鈴美の腰を置かせる抱き方。

 日余里に比べればそれは重いとしか言いようがないが、身長の差がある。鈴美が日余里と同じ身長だったら同じくらいの重さだろう。

「ん……って、キャ!?」

「あ、起きたか」

「ちょ、降ろして! 降ろして!」

「起きた途端からうるせーなー」

 降ろすとポカスカと俺を殴り始める。

「駅まで送るから後ろ乗れ」

「…………がいい」

「は?」

「家までがいい……」

「お前んち?」

「あ、ごめ……! 駅まででいいよ!」

「あー、はいはい。いいから後ろ乗れって」




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