チビと俺

□第1話 捨て猫
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「ちょっと待っててな」

 俺は濡れた靴下を玄関で脱ぎ、家に上がる。外よりはまだましなものの、暖房もなにも入ってない家の中は寒い。

 靴下は洗濯機に投げ入れ、その横にあったタオルを2枚持ちだす。

「はい、これで体拭けよ?」

 少女の手にタオルを握らせ、もう1枚のタオルは自分の着ている服を拭くため。

「何か温かい飲みもん出してやるから、中入れ」

「…………」

「荷物俺が持っててやるから、さっさと体拭け」

 少女の肩に下がっている荷物を無理やり取る。すると予想以上に重い。

「おま……これよく持ってたな」

 予想以上であって、普通に持てる重さ。だが、今目の前にいるか弱そうな少女にとっては重そうだ。

 少女は俺の言葉に何も反応を見せず、ヒールのないサンダルを片方脱ぐ。

(何で寒いのに……しかも雨降ってるときにサンダル……?)

 片方ずつ足を拭き、拭き終わると俺に手をさし出した。

「……どうした?」

「…………荷物……」

「え? 大丈夫か?」

 コクリとうなずく彼女に不安を持ちながら荷物を返す。






 少女を通したリビングは静かだった。誰もいないのだから当たり前なのだが。

 とりあえずエアコンのスイッチを入れ、少女をイスに座らし、ココアを作る。



「はい、ココアでよかったか?」

 横のイスに座り、少女の手前のところのテーブルにココアを置いた。

「……荷物、下に置いていいぞ?」

 少女の足の上に置いてある荷物。やはり大きさが不釣り合いだ。

「……床……濡れちゃう……」

「別にいいのに……」





「あー、お前名前、何?」

 何秒かの沈黙にも耐えかねた俺はまだ聞いていなかった名前を聞く。

「…………岡本、日余里……」

「日余里?」

 確かめると、日余里はうなずく。

「俺は市原豊な」

「豊……」

「そ、豊。日余里、親は?」

「……」

 日余里は首を横に振った。

「は? どういう意味だ?」

「…………」

「……何であそこにいたの?」


「………………………………家、出」

「は!?」

 一瞬、自分の耳を疑った。

(今、こいつ『家出』って言ったよな……?)

「…………日余里、家に帰れ」

「………………」

「お母さんが心配するだろ?」

「…………」

「…………家の電話番号は?」

「…………」

「……………………」

 いつまでも無言の日余里に、俺も無言になる。



「日余里?」

 顔を覗きこむと、プイッと明後日のほうこうを向いてしまった。

「…………っ……ぅ……」

「え!?」

 濡れた前髪で目が見えない。しかし、日余里の喉からでる泣き声にホンキでビビった。

「ちょ、おい! な、んで……」

「ふ……っ……」

(え、これって俺が悪いの!? 俺のせい!?)

 男が困るものといったら、1番に女に泣かれることだ。しかも知らないやつにいきなり泣かれたら余計困る。

「ちょ……」

「泣くなよなぁ……」

「っ…………っ…………」

 俺の言葉を真に受けたのか、日余里は必死に涙を抑え始めた。

(何か余計に罪悪感が……)

「あークソッ……もう何も聞かねぇから……」

(お願いだから泣かないでくれよ……)




「……お前、母さんに用事あんだよな?」

 日余里は前髪の裏に指をやり、涙をぬぐう。その後にうなずいた。

「母さんが戻ってくるまで、ウチにいるか?」

 この問いにもうなずくだけだ。

(……無口なやつだな……)

(つか……ん? こいつ、家出してきたんだよな?)

(なのに何でウチに来るんだ…………?)





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