チビと俺

□第3話 フーフー
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「おーい、ポカリあったからそっち持ってき……」

 少し大きめの声を発していた俺だが、それをちょっと後悔。

 日余里はまた寝ている。

「よく寝るなー……」

「さっさと風邪、治せよなー」

 そんなことを言っても、夢の住人の返事は聞こえない。

「…………素振りでもしてくるかー」

 さっきまで降っていた雨は今、止んでいる。





 庭に出て、金属バッドを握る。

「いちっ! にっ! さんっ! しっ!」

 バッドから流れ出る風を切る音。

 別に俺は野球が特に上手いわけではないが、野球は好きだ。

(こう……やめたくても、やめられないんだよな……)



 50回ほど素振りしたところで頬の一点が冷たくなった。

 雨だ。また降りだしてきた。


「うわっ……」

 小雨かと思うといきなりの土砂降り。

 俺はさっさと退散することにした。





「あ、豊、いいところに!」

「は?」

 水を飲もうとリビングに入ればパシりされる。

 “ちょうどオカユができたの”と母さんは言い、お盆にのったそれを日余里に持っていけ、と押しつけられた。







「日余里ー、起きてるか?」

 少し小声の声。

 寝ているところを起こすのは少し可哀そうだ。

 しかし病気のときはとりあえず食わないと。


 さっきの小声は、意味がまったくない。

 結局は俺は日余里の肩を揺すって、を夢から引きずり出したのだから。




「おはよう?」

「…………」

 その言葉にもうなずくだけ。

「体、起せるか?」

「…………」

 今度は首を斜めに。

(自分1人では起きれないってことか?)

「ほら、手伝うから」

 肩を引っ張り、浮いた背中に手を滑りこませればこっちのもの。そこから一気に日余里の上体を起こした。


「はいよ」

 日余里にお盆の両端を掴ませる。

 それを確認して俺は両手を離した。


 ――ガチャン――

「ぅお!?」

 日余里はお盆も持てないまでに衰退している。

 お盆は傾くことなく落ちてくれ、日余里の太ももの上に乗っかった。

「あぶねーな……」




 左手を茶碗に添える。ただ添えるだけ。多分、今の日余里にはその茶碗さえも重いのだろう。

(もしかして熱上がってるのか?)

 右手でレンゲを持ち、少量茶碗からすくう。

 それを口まで持っていく右腕全体がフルフルと震えている。


(…………怖っ!)

 今にも落としそうな勢いだ。


 ――スルッ――





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