チビと俺

□第5話 嵐の1日
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「イッチャン、沢! やっと来た! さっさと着替えて練習すんぞー!」

 学校についたときには皆はもう、ちゃんと着替えていた。

「スンマセン!」

 俺たちはタイさんに謝り、そのまま急いで着替え。

「沢のせいだぞー。お前が鈴美なんかと話ってからー」

「悪ぃ悪ぃ。でも『なんか』よばわりはこの俺が許さん」

「いったい何の権力使ってんだよ」

「あははっ!」



 部活は楽しい。タイさんが甘すぎなのはちょっと駄目だけど。

 試合にでられないのも、ちょっと悲しいけど。


(新入部員、入るといいなー)









「あー! つっかれたぁ!」

 部活が早めに終わり、また帰りもコンビニによろうと話になった。これは沢と2人ではなく、部員全員。

 沢が“コンビニに行ったら鈴美ちゃんに会えるかもー! な、イッチャン行こうぜ!”というのがきっかけだ。

(んなの、いるわきゃねーだろ)




「あ、真人君っ!?」

「鈴美ちゃん!」

「鈴美……」

 沢の言った通り、鈴美に会えた。コンビニのなかには鈴美がいて、中に入った途端にこちらに近づいてくる。

(……何、ずっとここにいたわけ?)

「……鈴美、何でここにいんの?」

「何よー、いちゃ悪い?」

「別にいいけど……」

(女1人でいたら危ないだろ……)

「危なくないし」

 鈴美はニヤニヤと俺の顔を覗き込んできた。

「は? え? 今の口に出してた?」

「いーや? 豊の考えることぐらい分かるし」

「……超能力者かお前は」

「んなわけないでしょ」

 失笑する鈴美。その後ろでちょっとしかめっ面をしている沢。

「あー、沢、悪い」

「あ、沢村君のこと忘れてた……」

 ボソリと呟いた鈴美。

(『沢村君』……『忘れてた』……沢、今の言葉聞いたらすっげーショック受けるだろうな)

「真人君、ヤキモチィ?」

「そ、そんな……」

「嬉しいなー」

「えっ……!」

(あー、もうメンドクサイ。いいや、タイさんのところ行こう)

 そう思い、この場を立ち去ろうとしたら沢が小さく親指を立てた。

(いやいやいや、別に沢のためにやった訳じゃ……)





 結局のところ、コンビニに30分ほどいるはめになり、早く終わった部活も意味がない。

 もう辺りは暗くなり始めている。

(沢のやつめ……)



「じゃーなー」

「あれ? イッチャン帰んねーの?」

「あ? 俺は……寄るところあんだわ」

「おー? じゃあなー」

 皆に手を振り終わった後、コンビニから出てくる鈴美。

 それを俺は車の陰から見ている。

 鈴美はそのまま1人で道を歩き始めた。

(やっぱなー……)

 俺は早歩きで自転車を押し、鈴美を追いかける。


「鈴美」

 ゆっくりと後ろを振り返ってきた鈴美。

「豊……」

 ため息混じりの笑顔をむけられても、少し困る。

「送ってく」

「いーよ」

「よくねーよ」

「何でよ」

「お前、どうせ近道すんだろ?」

「だってもう暗いし……」

 鈴美の家への近道は、あまり人通りはなく、ちょっとガラの悪い男たちが通るくらいだ。

「ならもっと早く帰れよ」

「だって……」

「また親、喧嘩してんの?」

「また、って何よ」

「また、だろ? 月1ですんじゃん」

 鈴美の両親はよく喧嘩する。喧嘩をしている土日になると鈴美は喧嘩を見たくないと言い、朝から夕方まではコンビニなどで時間を潰すのだ。

「もー、本当に送ってくれなくても大丈夫だから」

「駄目だ」

「頑固者」

「うっせー。何かあった後じゃ遅いんだぞ?」

「…………ホントにさ、そういうの……」

「ん?」

「わざわざ高校別にしたのに……」

「は? 高校? いったい何の話?」

「諦め、つかないっつーの」

「諦め? あぁ、独り暮らしらしのこと? 前独り暮らし、してーしてーって騒いでたもんな」

「豊」

「あ?」

「それ、わざと?」

「は?」

「…………バーカ」

「は!? 意味分からねーんだけど」

「豊はそれでいーの」

「はぁ?」

「豊、ホントにここまででいいから」

 ジッ、と真っすぐな視線。

(お前のほうが頑固な気ーすんのは俺だけか?)

「何かあったらすぐ携帯な」

「豊は私の保護者が」

「はいはい、じゃーな。気をつけれよ」

「言われなくなってそうするわ」


 自転車をUターンさせ、さっき来た道を……と自転車に跨った。


 しかし、あるものが視界に入ってしまい、ペダルに足を乗っけられない。







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