チビと俺

□第9話 女が泣く日
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「あのー豊さん」

「ん?」

「今さっき駅を通り過ぎたんですケド」

「そうだな」

「そうだなじゃなくて! 降ろして! 駅まででいいって言いたじゃん!」

「最初家までっつっただろ?」

「駅まででいいから!」

「我がままだなー……。いいから、俺がお前んちまで送っていきたいの」

「っ……豊のバカ!」

「自分でもそれくらい分かってるつーの」


「…………豊って……彼女、いるの……?」

「は? 何でいきなりそんな話? 別にいねーけど」

「…………と?」

「何?」

「本当?」

「嘘をついていったい何の特になるんだよ」

「…………かった」

「あ?」

「何でもなーい」







「ありがと、また今度ね」

「ん、何かあったら言えよ」

「豊おせっかいー」

「人の心配を何だと思ってるんだ」

「…………ありがと」

「……あぁ。じゃあな」







「入ってこないで!」

「は?」

(いやいやいや? ここ、元は俺専用の部屋で……)


 帰ってきた俺は、自分の部屋のドアをノックをし、一声かけて中に入ろうとした。

 しかし日余里からの先ほどの言葉で俺の思考回路は少し渋滞気味になってしまっている。

「ちょ、日余里……?」

「お願いっ……だから……今、は……入って……こな、い、で……」

(あれ……?)

 普段も、途切れ気味に言葉を並べる日余里。だけれども今のは何かが違う。

(もしかして…………)

「日余里……泣いてる?」

「ちがっ……!」

(……何? 今日は女が泣く日なわけ?)

 左手で頭をかきながら、軽くため息。

(どうしても……こういうのって、ホっておけないんだよなぁ……)

 俺はドアを躊躇せず開けた。


 中にはクマ子を抱え、ベッドに寄りかかりながら泣いている日余里。

「やっ……出てっ、て……!」

 俺は日余里の言うことを全く聞かず、部屋の中に入る。ドアを閉めたら日余里の隣に堂々と座った。



「……どうしたんだ?」

「どうも……しな、い」

「どうしたんだ?」

「……っ……ぅ……」

「あのなー……」

(あ)

(そういえば家出ていくとき、様子おかしかった、よな……)

「もしかして、俺が家出てってからずっと泣いてた?」

「そ……んな、こと、な、い……」

(そんなことある、って言ってるようにしか聞こえないんだけど。つか……)

「……泣いてんのって俺のせい?」

「……絶対違う……もん……」

「俺、何したんだ? 分からないと謝りようがねぇ」


「だから豊のせいじゃないって!」



 反響する日余里の大きな声。

(え)

 俺の心臓はそれに驚き、一端呼吸が止まった。

(怒らせ、た?)

「あ……ごめ……! っ…………ぅ」

「……いや、俺こそ……ごめん」



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