過去拍手

□島崎慎吾
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慎吾さんと本



「あ、慎吾さんだ」

 私は教室で読書をしていた。読書は好きだ。慎吾さんを待っている間の、よい暇潰しになる。

 窓を閉めきって、ドアもキチンと閉じている教室。でも、この季節だ。やはり寒い。

 そんな中、部活を終え、いつものように私を迎えに来た彼。フ、と暗くなり、文字が読みにくくなったことでその彼が私の席の前に立っていることに気がついた。

 慎吾さんと付き合い始めて早2年。彼とは同い年だが、何故か『さん』をつけてしまう。

 付き合い始めた当初、彼は『慎吾』と呼べと言ったが、気が抜けるとつい『さん』をつけてしまったことが何十回あるだろうか。そのうち慎吾さんも諦めた。

「帰るぞー」

「うん、ちょっと待って。キリの良いところまで……」

「こら、彼氏より本を優先すんな」

 指に挟んであったシオリを取られ、開いてあったページに挟まれ、本を閉じられた。

「いいところだったのにー」

「俺と一緒に帰るよりも?」

 もしかしたら、私の見間違いか、もしくは勘違いかもしれない。今のようなやり取りは今までに何十回もやってきたところだったが、慎吾さんが「俺と一緒に帰るよりも?」と言うときは絶対に少し、ほんの少しだけ寂しくて、悲しくて、私が「うん」って言ったらどうしよう。っていう表情をするんだ。

 私は彼のそんな表情が、好きだ。彼が私を好いている証拠の表情に見えるから。

「本が好き」

 ちょっと微笑みながら――この後の彼の表情を思い浮かべると自然に出てきた――閉じられた本を机の横にかけているバッグに入れる。

「え? ……まじ?」

 バッグを机の上に置き、彼の表情を見ると、ほぼ予想と同じ顔――予想よりも、少し深刻――だ。

 その顔を見てしまうと、失笑してしまう。

「何でそこで笑うんだよ」
 今度はブスッ、と口を尖らせて、拗ねた表情に変わる。


「ごめんごめん。でも、私が言おうとしていたこと聞いて?」

「んだよ」

「本が好き。――でも、本よりも慎吾のほうがもっと好き」

「――っ」

 慎吾さんは、驚き、頬を染めた。久々に口にした『好き』に、オマケした『慎吾』が効いたのだろう。

「さ、帰ろう? 慎吾さん」

「あぁ。……俺もすっげー好き」

 バッグを持った手とは逆の私の手を、慎吾さんは俗に言う『恋人繋ぎ』で握る。それから私の額にキスを落としてきた。

 大変だ。今度は私の頬が染まってしまった。



fin

――――

3代目拍手です!

慎吾さんのキャラ崩壊……してませんよね?(汗)

私と友人とでは慎吾さんへのイメージがとても違うことが、この前発覚しまして(笑)

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