長編
□好きだけど……
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「なぁ、俺のことホントに好きか?」
「好きだけど……」
この質問をするのは何回、いや何十回目だろう。
このやりとりだけじゃ、俺、お前が離れていきそうで……不安だよ……。
*好きだけど……*
今から3カ月前、俺は昼休みに名前に呼び出された。その時はまだ、名前とはあまり喋ったことがなくてビックリしよな……。
「あ……の……」
「何?」
告白か?
ハッキリ言って、心の中じゃドキドキしてた。けど、それを表に出すなんて恥ずかしくてできない。
名前は両手を前で重ねている。それでもって下を向き、長い綺麗な髪で顔が見えなかった。
「私、い、泉君のことが……好き、です……!」
言われた瞬間つい『きたっ!』と思った。
「そ、れで……よかったら…………つ、付き合って、くだ、さい……」
顔をホンノ少しだけ上げて、俺の顔を見る名前。
その行動が何故か、とても可愛く見えて『俺が守ってやりたい』って思った。
「あの、さ……」
「う、うん……」
「俺たち、同じクラスだけどあんまり喋ったことないよな?」
「うん……」
「俺のどこが好きなの?」
「え? えと……」
「笑った顔、とか……優しいところ……」
ありきたりな理由だな……。
「あと、ね……野球やってるところ……。すっごく楽しそうにやってるから、つい……いつも目がいっちゃうの……」
「ふぅん……」
「野球やってる…………ううん、泉君、いつもカッコよくて、見てるだけでドキドキ、するの……!」
そんなことを言われて、俺のほうだってドキドキするっつの……。
「…………俺さ、まだお前のこと好きじゃないけど…………それでもいいか?」
「え、いいの……? 付き合って……くれるの?」
「おう」
「う、そ……」
その場でポロポロと泣き出した名前。
「え、ちょ、おい!?」
「ごめんね、嬉しくって……」
ニコリと笑う名前の顔は、とても綺麗で、俺は一瞬で好きになってしまった。
「あー、ちょっと訂正……」
「え?」
「俺も……好き、だよ……」
「ぅ……っ…………」
笑うかな? と思ったら余計に泣いてしまった。
「あー! 泣くな泣くな!」
「う、ん」
必死で泣きやもうとする姿が、愛しくて……また、『守ってやりたい』って思ってしまう。
「あ、そだ」
「?」
「メルアドとケー番、交換しようぜ」
「うん!」
ポケットから出てきたピンク色の携帯。
「あ、それ俺と同じ機種じゃん」
「そうだね」
驚いた俺と違い、軽く受け流す名前。ちょっと『あれ?』て思う。けど俺はそこを軽く受け流す。
――次の日の昼休み――
「おっ前! 何で俺らと食おうとしてんだよ!」
「はぁ?」
いつも通り、田島や三橋たちと食おうとしたところ、田島に怒られた。
「彼女と食えよ! 彼女と!」
「ちょ、何で知ってんだよ!」
俺、誰にも言ってねーぞ!?
「昨日、携帯に名字のメルアドとケー番増えてたよなー!」
ニンマリと俺を見る田島。
こいつ! 人の携帯見たな!?
「はぁ!? 勝手に人の携帯見てんじゃねーよ!」
「まー、まー! な! 名字と食えよ!」
「…………」
ドンッ! と背中を押された。
一緒に食ったほうが……いいのか?
考えを泳がせながら、友達と一緒に弁当を食い始めようとしている名前のところに行った。
「あ、い、ずみ……君」
「あ、のさ…………一緒に……食わない………?」
やべぇ、顔から火が出そうだ。
「え? あ、え?」
名前の友達は『泉と付き合ってんの!?』と名前に問いただしていた。その返答に困っている名前の腕を引っ張って教室を出た。
「あー、恥ずかしかった……」
「泉君、腕……ちょっと、痛い……」
いまだに掴んでいた名前の腕。
「あ、悪っ」
……腕細っ! やわらか! 白!
名前の腕は思いっきり力を入れれば、簡単に折れてしまいそうだった。
「ううん、泉君、力あるんだね」
「そうか?」
「あ、お弁当、どこで食べるの?」
「あぁ、忘れてた……どこで食おう……」
「屋上は?」
近くにあった階段を指差す名前。
「そうするか」
屋上につくと、カップルが5組ほどいた。
「うわ、カップル多いなー」
「そうだね」
「でも俺らもその中の1組なんだよな……」
「うん、何か嘘みたい」
俺たちはなるべく、ほかのカップルから遠ざかったところで弁当の蓋をあけた。
「いただきます」
「あ、そういえばさ、私と泉君の携帯、同じ機種だってでしょ?」
名前が話しかけてきた。よかった、気まずくはなりそうにない。
「そうだな」
「私はね、入学してすぐに気がついたんだよ」
「へぇ」
「あ、あの人同じ携帯だ! って。それで何となく泉君のこと見てたら好きになってたの!」
「名字って何か……素直だな」
「そう? よく言われる」
「ふぅん……」
あ、やべぇ……。気まずくなる……。
ただ、俺にはその空気をどうにもすることができない。何喋ったらいいか分からないし。
「ね、泉君のことさ『考介君』って呼んでいい?」
「い、いいけど……君はやめてくれ、何か恥ずかしい」
「孝……介?」
「そ、そのほうがいい……」
ちょ、待ってくれ……可愛いんだけど……!
「ふふ、何か私的には君がないほうが恥ずかしいな」
「そ、か……」
「私のことも名前で呼んでくれる?」
「…………名前……?」
「うん! 嬉しい!」
「結構恥ずかしいな、名前呼び……」
「そうだねー、でもそのうち慣れるよ」
「そうだな」
「孝介く……は兄弟いる?」
「兄貴がいるぜ」
「へぇ! 似てる?」
「よく似てるって言われっけど……自分じゃよく分からねぇ」
「それ分かるよ。私、妹いるんだけどね、よく『似てるねー』って言われるけど自分じゃそうかな? ってなるの」
「だよな」
そんな他愛もない話が続いた。