長編

□好きだけど……
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 初めらへんは名前のほうからの話ばっかだったよな……。名前のほうから『好きだ』って気持ちがすっげぇ伝わってきて……。

 そのうち俺もすっげぇ好きになり始めて……俺からいっぱい話しかけるようになってた……。




「名前! 屋上行こうぜっ!」

「うん!」




「なぁ、知ってるか? 今日何の日だか」

「分かるよ! 私と考介が付き合い始めて1カ月!」

「そうそう! 早いものだよなー」

「うん、あっというまだったね!」

「あ、の……それで、これ…………」

 俺は朝からポケットに忍び込ませていた羽根の形のストラップを名前に差し出した。

「え? く、くれる……の?」

「おー」

 やべぇ、穴があったら入りてぇ!

「ふふ、孝介恥ずかしそう」

「恥ずかしいんだよ! 俺、こんなことすんの初めてなんだよ!」

「初めてなの? 嬉しい! 携帯につけていい?」

「お、おう……つか携帯につけてくれ」

「え?」

「これ……」

 俺はもう一度ポケットに手を入れ、携帯を取り出した。そこには名前に渡したストラップとは、形が逆の羽根。

「あ、これって2つで1つの……?」

「そ、だよ!」

「嬉しい! ありがと孝介!」

 いそいそと携帯にストラップをつける名前を俺は愛おしく眺めた。




「……な、キスしても……いいか?」

「え!? う、うん……い、いいよ…………」


 軽く触れるだけのキスだけど、俺の心はそれだけで十分だった。









 名前の様子がおかしくなったのは、それから1週間後だった。その時には俺、名前のことが好きすぎて、どうにかしちまいそうなほど、好きになっていた。

 っとに……どうしちまったんだよ……名前っ。





「名前ー、ここ分かるか?」

 名前がおかしくなる日の前日に席がえがあった。そこで偶然にも俺たちは隣になれた。ってのは嘘で、元々隣だった三橋に頼んで、席を交換してもらったのだ。

 次の時間は俺の嫌いな英語。しかも宿題があるのだが、どうしても分からない問題があったので今、名前に聞いてみた。

「あ、こ、孝介……」

「どうした?」

「ん? ちょっとボーっとしてただけだよ」

「ふーん、な、ここ分かる?」

「え、あーそこは…………」





 ――3日後――

「名前、はよ」

「あ、うん……」

 俺より後に教室に入ってきた名前。普通なら『おはよう』って笑顔で返してくれるのに、俺の顔をちょっと見て、すぐに下を向いてしまった。

「名前……?」

「ん? どうしたの……?」

「いや……」

 名前……今日も元気ねぇ……。

 一昨日から名前は元気がなく、俺の顔をあまり見なくなった。





「屋上行こうぜ」

「うん」



「今日の朝練な、三橋がさー…………」

「そう、なんだ」

「…………そうだんだよ! でな?」

「うん………ん」

 いくら喋っても俺の顔を見ない名前。

「…………どうしたんだよ」

「え?」

「ずっと元気ねぇじゃねぇか、具合悪いのか?」

「ううん、大丈夫だよ」

「じゃあ……何か心配事あるのか?」

「…………そんなんじゃ……っ……」

「名前!?」

 何も言わず、泣き出した。





「大丈夫か?」

「うん……ごめん……」

「どうしたんだよ……理由、教えてくれねぇか?」

「………………ごめん……」

「……そ、か……」


 フッと俺の頭の中に不安が浮かんだ。




「もしかして……別れた……」

「違う!!」

 最後まで言い終わる前に名前の返事がきた。

「そんなんじゃない! 別れたくなんかないっ!」

 また、ポロポロと泣き出した。

「んじゃあ……どうした……?」

「っ……ごめっ……ごめんっ……」





 それから、チャイムが鳴っても名前は泣きやまなかった。俺は名前から離れたくなくて、俺も授業をサボった。




 今……何時だろ……。

 携帯を取ろうと思い、ポケットに手を入れたが、携帯は入ってなかった。

 あ、教室に置いてきちまった!

「……ごめんね、孝介までサボらせて……」

「もう落ち着いたか?」

「うん」

「そっか! あ、なぁ、今何時だ? 教室に携帯置いてきちまったんだよ……」

「あ……えと……け、け、たい……い、家に置いてきちゃったの!」

 声がすごく震えていた。

「……そっか。じゃあチャイム鳴るまで昼寝でもしようぜ!」

 何で声が震えていたのか、すっげぇ気になったけど、また泣き顔を見るのは嫌だから何も問いたださない。

「あ、う、うん!」

 久しぶりに元気な名前の声を聞けた。それだけで俺もちょっと、元気になれたよ。



 ……何だったんだろ……。
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