図書館連載

□At time of daytime
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「前橋ちゃん、今日の晩暇だったら食事でもどうよ?」

「丁重にお断りします。…昼食ならいいですけど」


何時もなら馬鹿みたいに喜ぶ里崎先輩が今日は何故か言葉を濁した。
別に夕食を食べに出るのが嫌な訳じゃないが、さっき柴崎から今日は朝比奈さんと夕食だから郁をよろしくと頼まれたばかり。
柴崎ならともかく郁を一人にするのは心持ち不安だ。


「うーん…まぁしゃーないか、じゃあ昼に迎えに来るわ」

「何時ものとこなら現地集合で構いませんよ?」

「いや、今日はちょっと大事な話があるから別のとこ。大丈夫、俺の奢りだから」


別にそれの心配はしていなかったが、昼に連れて来られた店を見て有り難みを感じた。
お偉いさんとかリッチなご婦人方がランチに使いそうな高級感のあるフレンチ。
ここだと解っていたらもう少し服装に気を配ったのに。


「ここのランチ、値段が比較的良心的な割に味抜群だから食べる価値有りだよ」

「先輩、大事な話って」

「それは食事の後。まずはランチ楽しもうぜ?」


話は気になるがランチを楽しまないのは失礼だ。ひとまずランチを堪能した。

先輩が口を開いたのは食後のコーヒーを待っている時。


「なぁ前橋ちゃん、武蔵野第一図書館が不法に図書の処分を行ってるって言ったらどうする?」

「そんなこと…」


有るわけ無い。有ったとしても柴崎がそんな情報をキャッチしていない筈がない。
そういう類の話なら郁はまだしも僕には必ず流してくれる。
それがないということは、先輩の言うことが嘘か、柴崎がキャッチしていないか。


「有るわけ無い…って信じたいのも解るけど有るわけ。前橋ちゃん達が気付かない程小規模なだけでさ…記事になるとヤバいだろ?」

「それを今このタイミングで僕に伝えてどうするつもりなんですか」

「今なら差し押さえできる、っつったらどーするよ?」


思わず口走りそうになった言葉を懸命に飲み込む。いけない、冷静にならないと。


「…明日一杯。其処までが押さえとける限界だからさ、考えまとまったら電話ちょーだいよ」

「すいません…」

「いいって、ほら、コーヒー来たぜ?」


不覚にも先輩に気を遣われてしまった。この埋め合わせはいつか必ずしなくては。



****



仕事に集中しようにも先程の話がちらつく。
幸いミスはしてないがこのままだといずれ何か仕出かす羽目になるだろう、僕は少し早めに休憩をとらせてもらった。

少し歩いて非常階段に座り込む。考え事があるときに此処は人通りがないので最適だ。
先輩に与えられたタイムリミットは明日一杯。それまでに結論を出さなくては。
その為には情報の整理から入って要約するのが手っ取り早い。

ごく小規模で不法な図書の処分が此処、武蔵野第一図書館で行われている。
先輩はそれに関する記事を明日一杯まで押さえておける、つまり事実を伏せて図書館を救える。


「前橋さーん、何か考え事?」

「小牧二正…何時からそこに」

「ついさっき。前橋さんは考え事あるときよく此処に来てるだろ?だから今日もかな、と思って」


間違ってないので否定はできない。だからといって今回ばかりは相談できる内容じゃないが。


「厄介な事に巻き込まれまして…しかも他言無用なんです」

「それは面倒だね…まぁ前橋さんなら大丈夫でしょ」

「何を根拠にそんな…」

「前橋さんはちゃんと善悪の判断出来るだろ?それが出来てるから俺は前橋さんの思ったようにすればいいと思う」


その言葉で目が覚めた。僕は微笑んでいる小牧二正に頭を下げる。


「ありがとうございます、万事解決しました。そろそろ休憩が終わるので失礼します」


小牧二正は何も言わずに頭を撫でてくれた。
大丈夫、僕の判断は間違ってない。





悩み事と非常階段
夕飯前に先輩に電話しよう、



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