青雉

□雨が降る、
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「どうしてさ。」


もう会えない、と伝えると大好きな、大好きなクザンが私をその長くて逞しい腕の中に閉じ込める。どうして、と繰り返す彼に私はただ瞳を閉じて身を委ねる事しかできなかった。私は海賊で、彼は海兵。彼はそんなこと、なんて言ったけどそれは大きな壁なんだ。絶対に混ざり合うことは許されない。
もし、彼が海軍を辞めてくれたなら、なんて願うのは私の我侭。でも私にも譲れないものはある。ロジャーを裏切るくらいなら、、


「俺に殺して欲しいのか?」

「殺してくれるの?光栄だわ」


私を抱きしめるその腕に微かに力が篭るのを感じる。ああ、このまま羽交い絞めにされるのもいいかもしれない。この密会を続けていてまだ短いが、船長はこれに気づいてる。私が夜な夜な抜け出しているのを。きっと私を許す気でいるのだ。彼はそういう人だ。そこも尊敬に値するところだけれど、私は彼のように心の広い人間ではない。この密会をたとえ彼が許そうとも私が彼を裏切った事実は変わらず、私は苦しむことになる。


「相変わらず、あいつを想っているのか」

「あら、嫉妬?ふふ、嬉しいわ」


でも、と言葉を続ける私の瞳からは雨が降っていて。そういえばクザンと出会ったあの日も雨だったな。どうせなら慰めでもいいから本当に雨が降ればいいのに。


「でも?」

「ふふふ、なんでもないわ。もう、どうでもいいの」


どうでもいいの。貴方の温もりを感じていたいの。ロジャーに感じる想いとも違う。きっとこれを愛と呼ぶのね。



「ねぇクザン」

「・・・・なんだ」


殺して、
無機質なこの声が夜の静寂を破る。クザンの溜息が首筋にかかる。それさえも愛しいと思えるのに。
パキパキと足元から凍っていく。もうすでに足の感覚はない。胸の辺りまで凍ったところで、クザンが口を開いた。


「俺は、愛していたんだがな。お前を」


私も、という声は喉を通る前に凍った。


雨が降る、
(それは、俺の頬を伝う)












/10/03/13/~

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