若者

□シュライヤ
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薄暗い森が続く島。
人の寄り付かないこの島は数少ない島民と無法者が多い。
シュライヤはその島のバーに向かっていた。
海賊処刑人。それが彼の通称だからか、無法者達は彼を見るとざわめきだす。
この地域では随分と顔が割れてしまった、と彼は思った。
島の中心街路地裏に入ると無法者が延る。そんなところにバーを見つけるとシュライヤはゆっくりと店内に入った。
ぐるりと見渡すと明らかな海賊達が堂々と酒を呑んでいた。そんな中、カウンターの端に座る少女を発見した。
金色の綺麗な長い髪を二つに結わえ、飯をくっている少女は16、7と言ったところか。この場には似合わない幼い風貌。
俺の足はまっすぐ彼女の隣に向かっていた。
ドスン、と音をたて席に座ると彼女はちらりとこちらを見たがすぐに視線をずらしてしまった。
注文した酒をぐびぐび呑みながら彼女に目をやった。端正な顔立ち、桜色の唇、長い睫。すべてが人を魅了する少女だと思った。しかしそこで自分と彼女の間に立て掛けられたものに気づいた。


(………太刀、か)


布に包まれてわからないがその長さ、振る舞いからしてそう思った。その人殺しの道具が彼女も自分達と同じ、紛れも無い無法者なのだと思い知った。


「あの…なにか?」


気づけばずっと彼女を見ていたらしい。容姿に違わない声音。美しいと思った。


「お嬢ちゃん!酌しろよォ!」
「…お断りします」


酔った海賊が彼女にそう言う。彼女は後ろで仲間だろうか、ニヤニヤ気持ち悪く笑う男達を認め、嘆息とともに静かに立ち上がった。
手には先ほどの太刀。

布を取り去るとすべてが漆黒に包まれた刀が現れた。柄から鍔、鞘に至るまで漆黒なそれの鍔は卍型をしていて珍しい形だった。
かしゃん、と無機質に落とされた鞘から現れた刀身も黒く、これが世に言う黒刀か。

そんな彼女を見た海賊達が刀を抜くのと彼女が動くのは同時だった。舞う黒刀。それは海賊達をいとも簡単に切り倒す。その黒に映える金の髪がこの上なく美しく見えた。
全員逃げ出したのか、静かになった店内に刀を納める音だけが響く。静かに席に戻った彼女は刀を机に立て掛けた。


「マスター」


シュライヤはこの店の店主を呼んだ。今まで傍観を決め込んでいた店主はグラスを磨く手を休め、はい、と言った。


「隣のレディに、一番高い酒を」


ばっとこちらを見た彼女は怪訝そうにこちらを見ていた。
そんな彼女に、さっきの詫びと美しい太刀に、と言って持っていたグラスを少しあげた。
マスターの持ってきた高そうなワインを受け取った彼女は少し頬を染め、ありがとう、と言ってグラスを合わせた。


君との出逢いに乾杯

(今夜限りの甘い夢だな)





誕生日関係ないじゃんとか無視の方向で。

100409~

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