楓並木

□黒鏡
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黒いな、と思う。
太陽の光を受けて煌めく時も、
闇に溶け込む時も。

その冴えた白い肌とのコントラストが目に痛いほど、流川の髪と瞳は真っ黒だった。


今、自分の傍らで眠っている流川の髪の毛をそっと梳きながら、花道は遥か昔に美術の教師が言っていたことを思い出していた。

−色んな色を混ぜ続けていると、そのうち黒になるのよ−


教師は花道が絵の具で遊ぶのを制止しようと言っただけで、花道自身全く気にもとめなかったのだが、
あれは本当なのだなと最近になって思った。

流川は間違いなく、「黒」だ。
速さ、巧みさ、正確さ、その他にも様々な要素が混じり合っている流川のバスケを見れば、わかる。


他の全てを飲み込みなお自分の色は保ち続ける黒は、流川の色だ。
流川と共に居ることで、自分もいつか「黒」に飲み込まれ無くなってしまうのだろうか?
自分は「黒」になりたいのだろうか?

流川と居ることに不安を感じるのは、ふとこういう考えに囚われた時だ。


花道は溜息をついて流川の漆黒の髪を梳き続けた。

「溜息で目が覚めるのは初めてだ」


−!
なんとあの深すぎる眠りの流川が目覚めた。
「……何考えてる」
と言いながら花道を引き寄せ瞳を覗き込む。
「…やっぱり黒いな、流川は」花道は流川から視線を外した。


流川は部屋の明かりをつけた。
「どあほう、俺の目、ほんとに黒いか?」

花道はずっと自分を見つめ続けている流川の瞳を覗き込んだ。

「あっ」
そこで呟いたきり花道は流川の瞳にくぎづけになってしまった。

そこに広がるは、赤…自分の真っ赤な髪が流川の漆黒の瞳に映っている。まるで鏡のようにハッキリと。

その時花道は全てを了解した。

飲み込まれる心配などなかったのだ。
この漆黒の瞳は、他の誰よりも自分の姿を明確に映し出している。流川と共にいれば、最良の自分でいられるだろう。


花道は今度は安らかな、安堵の溜息を漏らし、黒い髪に指を絡めながら微笑んだ。
そして流川の腕の中、愛しい人と同じ真っ黒な眠りへと包み込まれていった。



§謝謝§
 

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