リクエスト 3

□綴られる言葉
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銀八は、そんな土方に気づく事もなく、相も変わらず猿飛を纏わり付かせている。
それが更に、土方の苛立ちを増徴させた。

 こんなことになったのも、あいつのせいだ!!

クソ!帰ったら、絶対に別れてやる!!!などど、ジュースを零したのは自分のくせに、八つ当たり気味にそんなことを考えながら、無造作に海に入って行った。
今日はそれでなくても暑い。
入った海の中はひんやりと冷たく、気持ちよかった。

 このまましばらく、ここにいようか・・・

ぷかぷかと波のリズムに乗っていると、なんだか気持ちが良かった。
砂浜の賑やかな声が、風に乗って聞こえてくる。
ふと上を向くと嫌になるぐらいの青空が広がり、ぽっかりと白い雲が浮かんでいた。

 先生はやっぱり、こんな可愛げのない男より、慕ってくれる可愛い女の方がいいのかな

自分で考えておきながら、土方はずんと落ち込んだ。
自分に可愛げがないという自覚は、嫌というほどある。
あんな猿飛のように、好意を素直に表す事なんて出来はしないのだ。
傍から見ていたって、猿飛はとても一生懸命で可愛い。
落ち込みながら移動していると、いつの間にか波に持っていかれたのか。
既に足が届かなくなっている。
まずいかな、と思い、岸に帰ろうとしたその時だった。
突然、右足に激痛が走る。どうやら攣ったようだ。
そう思った瞬間には、既に躯は海の中に沈んでいた。
慌てて海面に上がろうとするが、そうすればそうするほど足は痛くて体は浮上しなかった。
周りは圧倒するほどの、蒼、蒼、蒼・・・。
あっという間に沈んでしまったので、息を止める事も咄嗟にできなかった。

 苦しい・・・!!

体が必死に酸素を求める。
それでもこんな海中に求めるものはなくて、急激にその意識は朦朧とし始めた。
海に太陽が反射して、それが乱反射してきらきらと煌く。
ぼんやりとそれが綺麗だ、などと呑気なことが浮かんだ。
このまま自分は死んでしまうのだろうか?こんなところで一人で、誰にも気付かれずに・・・。
こんなことなら、ちゃんと銀八に自分の気持ちを伝えておけばよかった。
いつもいつも、好きだと囁いてくれるのは銀八だ。土方はそれに恥ずかしそうに頷くだけで、実際に口にしたことはなかった。

 こんなことなら、くだらねぇ嫉妬やきもち妬かねぇで、そばにいりゃぁよかった・・・

好きだよ、と告げたら、彼の恋人は喜んでくれただろうか?
もう今更遅いのだ、と後悔に苛まれる。
意識を手離す直前、その瞳は確かに銀色の光を捕らえていた。










「じ・・か・!!・・・じかた!!!」

どこからか、必死な声が聞こえる。どうやら自分を呼んでいるようだ、とまるで他人事のように思った。
それがあんまりに懸命で切なそうな声だから、目を開けようと思うのだが、なぜかそれが思い通りにいかない。
体もまるで鉛を詰め込めたように重く、普段は無駄に回る頭も全く動いてくれなかった。
これは、この声は知っている。
先程から焦がれて、必死にもがいて手に入れたいと思っていたものだ。
告げなければ・・・。先程ひどく後悔したばかりだ。
土方はどうにか重い瞼を引き上げると、やはりそこには銀色に光る恋人の心配そうな顔があった。
何故彼は、こんな顔をしているのだろうか?
土方はふと、意識を失う前に考えていたことを思い出した。

 嗚呼、伝えなければ・・・

動かない腕をもどかしげに、その愛しい人へと伸ばす。
大好きな銀色の髪に触れ、ほぉっ吐息を吐いた。

「す・・・き・」
「何?土方?苦しいの?!」

銀八が的外れなことを聞いてくるのに、土方は何とか彼の首に手を回し自分の方に引き寄せる。
目前に迫った頬に自分の唇を寄せ、その耳元に囁いた。

「好き・・・。せん・せ・・・ィ」

蕩けるような笑顔で、まるで吐息に乗せるように言葉が綴られる。
ようやく伝えられた言葉に満足したのか。
土方は再びくったりと力を抜き、そのまま意識を手離した。







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