リクエスト 3

□想い出はかくも鮮やかで
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彼の人は、出会った瞬間から鮮烈な光を放っていた。





その頃、世は幕府が天人を迎合し、一気にその様相を変えていた。
未だ続く侍の残党による抵抗運動。おいてけぼりを食った彼らの抵抗は、それは凄まじいものであった。元来侍は、死を尊ぶ。屈するぐらいなら華々しいまでの死を。そんな彼ら特有の美学を解さない天人にとって、侍は恐るべき厄介な相手だった。
これ以上、そんな厄介者を増やしてはならぬ。そう天人は考えたに違いない。
そのおかげで廃刀令が施行され、事実上、侍はこの世から抹殺された。
その中、彼も居場所を無くして町をほっつき歩く日々を過ごしている。
彼、永倉新七は、長年剣のみで生きてきた。それなのにいきなりそれを取り上げられ、生きる目標を失していたのだ。
ただ放浪し、喧嘩に明け暮れる日々。
その日も肩が当たっただ、どうだとえらくベタな理由で諍いを起こしていた。
相手は昼間から飲んだくれているようなごろつきが五人。
それに対して、永倉は一人。
あちらから吹っかけてきた喧嘩だが、あまりにも安直に買ってしまったかと、僅かばかり後悔した。
永倉は神道無念流免許皆伝の凄腕だが、相手が五人。しかも酔っ払いとなれば、相当に分が悪い。
先手必勝とばかりに不意を突き速攻で二人叩き伸ばしたが、相手もすぐ体勢を立て直した。
こんな喧嘩に武士道は通じない。一斉に斬り掛かられ、どうにか捌いていくがそれにも限界があった。
一人と鍔迫り合いになった瞬間、背中に殺気を感じる。
この距離では躱せない。

 ここまでか!?

次にくる衝撃を思い、身を強張らせると同時に、キィーンと、刃同士が奏でる甲高い音が鼓膜を打った。
覚悟していた衝撃も痛みも襲ってこない。
何が起こったのか分からず、目線だけをちらりと後ろに向けると、自分より小柄な体がそこにあった。

 子供……?

それに瞠目するが、その子供の発した言葉に更に吃驚した。

「面白そうだから、混ぜろ」

凛とよく通る声が、傲岸にそう言い放った。それを聞いた男たちは一気に激昂する。

「このぉ、くそガキャァァァ!!」

永倉の前にいる男以外の二人が子供に斬り掛かる。

「おい!ちょ、待て!!相手は俺だろう!!」

永倉は焦った。自分の買った喧嘩に他人を巻き込むつもりはない。それがたとえ、勝手に向こうが首を突っ込んできたのだとしてもだ。しかも子供のようだった。
永倉は焦る気持ちのまま、男を斬り伏し、振り返る。
しかしそこに広がる光景に、永倉は唖然と口を開ける羽目に陥った。




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