薔×薇

□酒は呑んでも呑まれるな
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『酒は呑んでも呑まれるな』


カラン…

ゾロがダルそうに動かした体に、空になった酒瓶が当たった。
瓶はゾロの四方を囲う程で、彼が動く度に甲板の上を転がった。

「ぅーん……。」
何度目かの低い呻き声を発したゾロは、顔を赤く染めている。
海の夜風はひんやりと冷たく、ゾロは無意識に体を縮めて寝ていた。

カラン、カラン

「お前珍しく酔ったな。」
散らばった空き瓶を回収しながらサンジが言った。
「ん〜〜…酔って、ねぇ…。」
「はいはい…。」

呆れたように息を吐くも、その顔は楽しそうに笑っていた。

グイッ

回収した瓶をキッチンへ運ぼうとしたサンジだったが、
足首に重みを感じてその方に視線をやった。
見ると、ゾロが自分の足首にしがみついている。

「おい、何だよ離せ。」
「んー…ん…。」
「おい。」

離れないゾロにムッとしたサンジは、その長い足を勢いよく前に出した。
が、軽くなるはずの足首には未だ緑の重み。
呆れたサンジはしゃがんでゾロを見た。
「離れろマリモ。歩けねえ。」
「んー…サ、ンジ。」

ドキッ…

甘く上擦った声が、普段呼ばない自分の名前を呼ぶ。
意外性を重ねたその声は、サンジの耳を悪戯に擽った。

「ゾロ…?」
落としそうになった瓶を置いて、サンジはゾロを見た。
頬を赤く染めて、眉を下げたゾロは、
戦闘時の顔と別人のようである。

「サンジぃ…。」
甘えたように再びサンジを呼んだゾロは、
サンジの足から離れ首に抱き着いた。
「お、い…ゾロ…?」
ゾロの意外過ぎる行動に、サンジは動けなくなる。
拒むという選択肢も忘れていた。

目が合うと、ゾロの瞳に写る自分を確認出来た。
潤んでいるせいで、その中のサンジはゆらゆらと揺らぐ。
目を合わせた後、ゾロはゆっくりと顔を近付けながらサンジの口元を見た。
伏せ目がちになったことで、サンジの目線は自然とゾロの睫毛に移った。

コイツ…意外と睫毛長ェんだ…。

「サン、ジ…。」
思わず見とれていたサンジに、せがむようにゾロが呟いた。

トクン、と鳴る心音に急かされ、サンジはゾロの背中に手を回した。
もどかしそうに、再びサンジの目を見たゾロは、ゆっくり目を閉じた。

こ れ は … !!
俺 誘 わ れ て る !

誘われたキスを断るなんざ男が廃る…!←?

いざ、満を持してサンジも目を閉じた。

キ ッ ス … !!




……の、はずだった。
少なくともサンジはそのつもりだった。

ぽすっ…

「んー…!んー…!あれ…?」

サンジの目の前にあるはずの葱坊主は、自分の肩ですやすやと寝息を立てていた。
「えっ!?」

ガーン…

「…えっ…ガーンて!!俺ガーンて……えええええ!?」



恋の始まりでした。



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