薔×薇
□dessert time
1ページ/2ページ
「Zzz…。」
腹巻き姿の剣豪が、気持ち良さそうに寝息をたてるのは、その船が平和である証拠の一つ。
そのうち…ほら、こんな声も聞こえてくる。
『dessert time』
「サンジーっ!おやつー!」
麦わらの船長さんは、今日もコックにおやつのおねだり。
彼の底知れぬ胃袋を飽きさせない腕を持つコック。
更に闘ったらこれが強いのだから、さすが「サンジ」とでも言うべきだろうか。
「ちょっと待ってろ!今持ってく。」
「イェーッ!おやつっ♪おやつっ♪」
クルー達の大合唱が始まったが、剣豪は起きない。
まぁ、いつものことかもしれない。
「ほれよ。」
「ひゃっほーい!」
サンジが持ってきたアップルパイにがっつくクルー。
「マリモは?」
その「マリモ」の分のアップルパイ片手にサンジが聞く。
「んあー?ゾロならどっかその辺で寝てんじゃねぇか?」
口の端にパイの欠片を付けたウソップが答える。
…彼の鼻は元々こうなのか?伸びたのか?←
「愚問だな…。」
壁に寄りかかって昼寝するゾロ。
サンジが目の前に立っても起きないのは、爆睡してるのか意地なのか最早わからない。
「食うか?」
「食う。」
最短の会話を済ますと、ゾロにパイが渡される。
ガツガツと食べ始める。
船長も早食いだが、ゾロも早い。
「(こいつホント不味そうに食うよな。)」
そんなことを思いながら、サンジはゾロの前に腰を下ろした。
「…何だよ?」
不思議に思ったゾロが少し眉を潜めて聞く。
パイはもう殆ど食べてしまっている。
「いや…いいなぁ、と思って。」
「は?」
ゾロの目を真っ直ぐ見ながらサンジは続けた。
「デザート。俺も食いてぇと思って。」
「?食えばいいじゃねぇかよ。お前ならすぐ作れるだろ?」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」
サンジの声が急に荒くなった。
「お前世界の食料事情全くわかってねぇな!?
小麦粉がねぇんだよ!小麦粉!つーか、バターも少ないわけ!」
「…ふーん。」
一方的に言われたゾロは、ポカンとした顔。
しかし、サンジの言葉を思い出して、サンジの顔と残り少ないアップルパイを交互に見る。
「(…ったく。言った俺も馬鹿だった。)」
サンジは項垂れている。
「これ。」
「あ?」
「少ねぇけど食うか?」
少しだけ上目遣いに言うゾロ。
「甘いもん、食いたいんだろ?」
その言葉に、サンジの目が妖しく笑った。
「いいのか?」
彼の変化に気付かないゾロは、コックリ頷く。
「じゃあ御言葉に甘えて。」
するとサンジはゾロの右手を取り、バターで少しベトついた指をくわえ込んだ。
ゾロの一瞬の震えが、指を通してサンジの舌に伝わる。
「んなっ…何しやがるてめぇ!!」
サンジはバターを綺麗に舐め終わると、指を解放し、そのままゾロの右手首を掴む。
それを壁に固定して顔を近付ける。
ゾロの熱が耳まで伝わっている。
「大人しくしてろ。デザートは静かに楽しむもんなんだよ…。」
サンジはそう言いながらゾロの左耳をなぞり、滑るようにして顎に手を添えた。
「てめっ…。」
何か言おうとしたゾロの口が塞がれた。