薔×薇
□爪
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パチン、パチン
キッチンから聞こえてきたその音に、俺は足を止めた。
「またか…。」
『爪』
キッチンへと降り、音の方へ近付く。
その音を発している男は、少しだけ俺を見て作業を続けた。
「お前いつも爪切ってるな。」
言いながら椅子に座る。
「コックだからな。」
サンジも作業をしながら答えた。
コイツは本当に綺麗な手をしてやがる。
指は長くて細いし、爪は整った形をしている。
これが毎日水仕事をしているとは思えない。
パチン
「あと、お前の為。」
最後の爪を切り終えたサンジは、爪を見ながら付け加えた。
「は?」
予想外に加わった答えに、俺は思わず間の抜けた声を返す。
「何、で…。」
尋ねた声は、サンジが立ち上がったことで少し弱くなった。
頬杖をついて目で追うと、その綺麗な手がまだ乾ききらない自分の頭に乗った。
ガシガシと、少し強く俺の頭を撫でた。
突然の出来事と、顔にかかる小さな雫に目を細める。
「後でわかるよ。酒飲んで待ってろ。」
何だか楽しそうに笑って、サンジはキッチンを出た。
テーブルに置いてあった酒瓶に手を伸ばし、俺は栓を開けた。
「酒飲んで良いんだ…。」