ドルフィン学園

□ライバル
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『ライバル』


「まっくのポテト食いてえ〜。」

部活終わりに俺が言うと、サンジはいつもムッとして俺の腕を引っ張る。

「俺が作ってやるっつってるだろ。」

そのままアイツの家に呼ばれて、アイツは俺が食いたいと言ったものを作ってくれる。

アイツは親父さんと二人暮らし。
親父さんはレストランをやっていて、夜は住居スペースに誰もいない。
そこのキッチンは、アイツが自由に使って腕を奮える場所らしい。
親父さんの血はよく継いでるみたいで、料理をしている時のアイツはイキイキとしている。
正直、水泳をしている時よりも良い目なんじゃないだろうか。
…俺にはそう見えている。

「コラ!!クソナス!!何勝手に芋持ってってんだ!!」
「ああっ!?2個ぐらいで文句言うなよクソジジィ!!」

……口の悪さもそっくりで。

「出来たぞー。」

アイツが作ると、フライドポテトもかなり上品に仕上がる。
細切りのカリカリタイプと、半月型のふっくらタイプ。
ケチャップとマヨネーズとバジルソースまで用意してくれて、ファストフードよりもはるかに満たされる。

俺が食ってる間、アイツは殆ど食わない。
感想も聞かない。
でも、俺が「美味ェ。」と小さくこぼすと、アイツは幸せそうに笑う。
その笑顔を見ると何だか恥ずかしかったけど、俺も嬉しかった。


ただ、今日はいつもと違う。
部活が終わって帰り支度をしている時に、サンジに声を掛けた。

「なあ、美味いカレー食いに行かねえ?」

いつもはムッとするアイツが、今日は驚いた顔をして動きが一瞬止まった。

「…美味いカレー……?」
「おう。俺が好きなカレー。食い行かねえ?」
「……行く。」

ボソッと返すサンジを見て、アイツに気付かれないように笑った。


「え…蕎麦屋?」

店の前に着くと、アイツは不思議そうに看板を眺めた。

「蕎麦屋のカレーって美味いんだぜ。」
「ふーん…。」

俺が笑っても冷たく乾いた返事しか返ってこなかった。

「「いただきます。」」

注文したカレーがテーブルに並び、食べ始める。

「やっぱ美味ェ!」
「……。」

俺はいつも通り食っていたけど、アイツは妙にゆっくり食べていた。

「あれ…美味くなかった?」
「いや。クソ美味ェ。だからゆっくり食ってんの。」

何かよくわかんねえけど、カレーを食うアイツは、何故かキッチンにいる時と同じ目をしていた。

「「ご馳走さまでした。」」
「じゃあな、ゾロ。また明日。」
「え?」

食い終わると、アイツは足早に帰って行った。

「…また明日……。」


翌日から、部活が終わるとアイツはすぐに帰った。
毎日一緒に帰って、毎日のように家に呼ばれていたのに、一人でそそくさと帰ってしまう。

…別に。寂しくねえもん。

そんな日が一週間程続いたある日の部活終わり。

「ゾロ。」
「ん?」
「カレー食いたくねえ?」
「えっ?食いたい!お前もあの店気に入った?」

俺が言うと、アイツはドヤ顔で言い放った。

「俺ん家、来いよ。」
「へっ?」

すっげえドヤ顔だった。


「何でお前ん家なんだよ。カレーぐらい作れると思うけどよー。」
「フツーのカレーじゃねえからな。」
「は?」
「お前の好きなカレーだ!!」

やっぱりすっげえドヤ顔だった。

アイツの家に着いてテーブルに座ると、アイツは大きな鍋を火にかけた。
程なくして、カレーの良い香りがしてくる。

作ってあったのかよ…。

「お待ちどおさま。」

ホカホカのカレーを前に、手を合わせる。

「いただきます。」

一口食べた瞬間にわかる。

「あ……これ…。」

俺の側に立つサンジを見上げると、ドヤ顔があの幸せそうな笑顔に変わっていた。

「同じ…いや寧ろ…好き。」
「大変だったんだぜ、この一週間。」
「お前それで早く帰ってたのか?」
「おかげで寝不足。」

こんな寝不足自慢、真顔で受け止められるわけがない。

「そこまでするかよ…。」
「…お前を好きな俺が、お前の好きなもの作れなくてどうする。」

馬鹿だコイツ…。

「ていうか嫉妬なんだけどね。お前から好きって言葉聞いちゃうと平常心じゃいられないわけ。」
「アホか…。」

俺だって平常心じゃなかった。
この一週間ずっと。

「俺が好きな店あったらまた連れてってやる。」
「臨むところだ。ライバルがいた方が燃える。」

そう言って軽くキスをされると、無性にアイツが欲しくなって。
でもカレーはまだ残ってる…。
折角作ってくれたカレー…。

「半分こしようぜ。」

揺れる俺の前に、スプーンを持ったアイツが現れる。
期待に満ちた顔を見たら、カレーの味なんて忘れてしまった。

俺は俺で、アイツが熱心に取り組む料理にライバル心を抱いているなんてことは、絶対に言ってやらない。



終。



お蕎麦屋さんは出汁が違いますよね。


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