薔×薇

□コックの仕事
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クソ最悪な夢…。
これで3度目だ、どうなってやがる…。

クソ静かな熱帯夜。
俺の鼓動だけが煩く音を鳴らす。
汗ばんだ体を冷ます為、俺は甲板に出た。

漆黒の空の下、漆黒の大海原が不気味に微笑む。
その微笑みに耐えかねて、俺はタバコに火を着けた。

この広い海の上、いつ襲われてもおかしくねえ。
そう、いつ死んだっておかしくねえんだ。
アイツが先かもしれねえし、俺が先かもしれねえ…。

「早く言え、ってことか…。」
「何を?」
「!」

声の方を見ると、ゾロが立っていた。

ああ…ちゃんと生きてるな。

「…今日の船番お前か。」
「ぇ…ああ…。」

船の手すりを背に凭れると、ゾロが隣に来た。
俺と同じように凭れ、手すりに肘をかけた。

「お前が起きてくるなんて珍しいな。」

羽織ったシャツの隙間から、未だ痛々しく感じる傷が見える。

「お前こそ下降りてきて何だよ?酒か?」
「いや…。」

夜空を一瞥したゾロが、真っ直ぐな目で俺を見た。

「お前が来るような気がして。」
「え…?」
「つーか…お前に呼ばれた気がした。」

あまりに真っ直ぐな目が俺を捕らえる。

俺は、軽く息を吐き出した。

「お前…相手わかって言ってんのか?」
「は?」

手放したタバコは、海に消えた。

「俺もちょうどお前のこと考えてた。」
「え……っ…!」

腕に収めたゾロの鼓動が速まるのがわかって、妙に安心した気持ちになる。

「ぉ、い…。」

少しだけ抵抗を見せるゾロは、きっと顔が赤い。
なあ、そうだろ?
ほら…。

見つめた瞳は俺から逃げた。

「お前、死ぬの怖くねえの?」

腹の傷に触れて聞くと、ゾロがピクリと疼いた。

「海賊が何言ってやがる…。」
「海賊ったって人間だ。」

傷に触れていた手を、ゾロの顔へ持っていった。
頬を包むと、ゾロが手を重ねてきた。

「お前…何考えてんだ。」
「…お前のことって言ったろ?」

俺のキスは、静かに受け入れられた。



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